学びの機会に恵まれて

伊藤 始富山県立大学

工学部環境・社会基盤工学科

教授 伊藤 始

 

私は、大学院を卒業後に前田建設に入社し、技術研究所のコンクリート構造グループに配属されました。入社してからすぐに、鋼コンクリート複合構造橋脚「REED工法橋脚」の開発メンバーになりました。REED工法は主鋼材に突起付きH形鋼を用い表面に高耐久埋設型枠SEEDフォームを配置する工法で、足場や型枠の省略による急速施工と高い耐震性の特徴を有する工法です。開発ではモデル試験体の正負交番載荷実験に携わり、橋脚の耐震性評価を先輩から学びながら業務を進めました。REED工法が香港での鉄道KCRの橋脚工事に採用された際には現地に3ヶ月滞在し、設計施工の課題解決や施工状況の記録を実施しました。その後、SEEDフォームの東京ゲートブリッジ橋脚への適用や高耐久化を担当するとともに、上部構造リバーブリッジと剛結した立体交差工法を開発しました。
もう一つに温度応力解析ソフトの開発と現場支援があります。DOS版であった解析ソフトをWindows版に改良するもので、各種機能の検証ならびにユーザーインターフェイスの仕様決定を行いました。大学院で田邊忠顕先生に細骨材中の不飽和浸透流解析のテーマを与えていただき、このソフト開発に抵抗感なく取り組むことができ、先生や上司に感謝する想いでした。ソフト開発後に支店や現場からの依頼を受けて温度ひび割れの検討業務を実施しました。印象に残る伊勢湾岸道の高岡高架橋では、橋脚内部の温度低減のためにエアパイプクーリングを提案し、採用されました。中部支店の協力のもとに現場計測を実施し、パイプの熱伝達率や断熱温度上昇特性を推定し、ひび割れ低減効果を評価しました。北陸地方でも温度ひび割れの抑制に寄与する活動を続けています。
2002年から港湾空港技術研究所に出向して、多数の大型試験体の構造実験を実施しました。鉄筋が腐食したコンクリートや軽量骨材コンクリートの研究に携わり、特にメインテーマとして短繊維補強コンクリートの構造性能の評価に取り組みました。内容はひび割れ分散性やせん断耐力の定量評価、圧縮軟化モデルの構築、海洋構造物への適用性検討と多岐にわたりました。ここでの3年間で、コンクリート構造をより深く学ぶことができたことはもちろん、この分野で活躍する多くの方と知り合えたことが有意義でした。
2009年に富山県立大学工学部環境・社会基盤工学科に構造力学と建設材料学の担当教員として赴任しました。本学科は1963年設置の県立大谷技術短期大学を起源とし、2009年に4年制に移行しました。大学に赴任してから北陸地方の先生方に様々な委員会やプロジェクトに声を掛けていただき、親交が深まりました。鳥居和之先生を中心とする北陸SIPやフライアッシュ委員会に参加して、プレビーム桁や橋脚、床版へのフライアッシュ適用を検討しました。また、宮里心一先生を中心とした教員連携会議に参加し、中小自治体の橋梁維持管理が円滑に実施される仕組み作りに取り組んでいます。
教員となり県や市町村との交流が増え、自治体が管理する実橋梁に接する機会が多くなりました。その中で北陸道大川橋や国道8号線歌高架橋から切り出したPC桁を譲り受け大学の駐車場に置き、研究や実習の良い教材になっています。また、1936年建設の旧富山大橋の材料試験を行った際に、多くの手間と時間をかけて作られたことを感じ、直径40㎜超の粗骨材から「粗骨材は大きく、単位水量は小さく」の考えをいま一度学ぶ機会となりました。
このように、大学に赴任して橋梁等の実構造物に触れる機会や提案を実践できる機会が多く存在することを感じています。これらの機会を活かして、地域や企業への貢献と、学生が主体的に学び成長できる教育研究を結び付ける環境づくりを目指しています。
次は北陸SIPを通じて親交を深めました長岡工業高等専門学校の井林康教授にバトンを渡したいと思います。

愛知製鋼