PC橋との歩み

土田 一輝清水建設株式会社
土木技術本部 企画管理部企画管理部長
土田 一輝

私は1994年に清水建設へ入社し、約15年間、プレストレストコンクリート(PC)橋の設計と施工に携わりました。PCとの最初の出会いは埼玉大学4年生の時で、睦好宏史先生の新素材FRPをPC桁に適用する研究に興味をもったことがきっかけでした。
FRPの特性を活かすため、外ケーブルPC桁への適用が検討されていましたが、当時は外ケーブルPC桁の曲げ性状が未解明でした。私は睦好先生の指導の下、その研究に取り組み、成果を土木学会論文集に投稿して、睦好先生とともに吉田賞(論文部門)を受賞しました。この経験は、技術者としての第一歩を踏み出す大きな励みとなりました。
入社後は本社のPC橋を担当する部署に配属され、10年ほど年上のK先輩とO先輩に出会いました。O先輩は新入社員だった私の教育係で、設計業務の基本やPC斜張橋の設計、上げ越し計算などを教えていただきました。O先輩が現場に赴任された後は、K先輩の指導の下で、外ケーブルPC橋の非線形解析やプレキャスト(PCa)セグメントの線形管理ソフトの開発などを行いました。お二人に指導していただいたことは、橋梁技術者としての基礎を築く上で欠かせないものでした。
入社4年目には佐賀県の天建寺橋の現場に転勤しました。この橋は3室箱桁のPC斜張橋で、当時は事例の少なかったPCaセグメントの張出し架設や外ケーブルPCが採用されていました。私はK先輩とO先輩から学んだことを頼りに、斜材やPCaセグメントの架設に取り組みました。
2000年には有珠山の噴火で被災した高速道路の復旧工事に携わりました。この現場でK先輩と再会し、様々な橋梁の被災調査や復旧設計に、寝る間も惜しんで取り組んだ日々を今でも鮮明に思い出します。
2001年に本社へ復帰し、世界最大の1面吊りPC斜張橋であるベトナムのバイチャイ橋に携わりました。ここでO先輩と再会し、2003年には現地に赴任して設計照査や施工図面作成などを担当しました。技術的課題の難易度が高く、実物大載荷試験や3次元FEM解析による応力照査、耐風安定性の照査などに取り組みました。
様々な困難に直面しましたが、現地でO先輩から指導を受け、さらに本社におられたK先輩にも指導を仰ぎながら一つ一つ課題を解決していきました。この経験は橋梁技術者として大きく成長する貴重な機会となりました。
06年10月から3年半ほど本社でPC橋の設計や技術提案を担当し、その後はPC橋の業務を離れて地方の支店や本社で様々な業務に携わりました。
K先輩とO先輩から学んだ技術や仕事に取り組む姿勢・情熱、部下の指導方法は、PC橋以外の分野でも十分に活かされました。お二人とも若くして亡くなられ、直接の指導を受ける機会が失われてしまったことは非常に残念ですが、その教えは今もかけがえのない財産となっています。お二人からのみならず、PC橋を通じて多くの方々と出会い、学んだ貴重な経験に感謝し、今後も技術者として成長を続け、後進の指導に役立てたいと思います。
次は、睦好先生の下で共に研究を行った鹿島建設の山口統央さんにバトンを渡したいと思います。

愛知製鋼