西日本高速道路株式会社
技術本部 技術環境部構造技術課長
今村 壮宏
私は1997年に日本道路公団に入社しました。入社にあたっては高速道路の計画~建設ができれば良いかなぐらいの軽い気持ちしかなく、橋梁をしたいとの思いは全くありませんでした。入社後、最初の赴任地が福岡の管理事務所で、1年目で右も左も分からない状況のなか、耐震補強や床版補強の設計や工事を担当させてもらえました。これがきっかけとなり、いつの間にか橋の魅力にはまっていき、橋梁技術者になりたいと思うようになりました。その後は幸いにも橋梁に関する業務に携われることが多く、様々な経験や勉強をさせていただきました。
私の経験では特に自慢できるような橋はありませんが、その中で特に印象に残っているのが現在実施中の関門橋大規模リフレッシュです。中国と九州を結ぶ大動脈であり、供用から40年を超え老朽化が顕著になっていたため2011年から補修に向けた検討を始めました。検討は、塗替塗装、疲労亀裂対策(支承取替)、床組み連続化、主ケーブル防錆など吊り橋特有の構造を含め多岐にわたる内容で、産官学の様々な専門分野のメンバーによる委員会を立ち上げ、補修対策の検討を進めていきました。
そのなかで、支承や床組連続化など様々な部材の補修補強を検討しているときに、先輩から個々の補修だけを近視眼的に考えるのではなく、全体最適の視点から、その補修が橋梁全体へ及ぼす影響も考えるよう助言されました。どうしても個々の補修・補強に焦点を当ててしまい全体を俯瞰することができておらず、特に吊り橋は他の部位を含めた全体への影響も踏まえた広い視点での検討が重要であることに気付かされました。
技術的課題も盛りだくさんでしたが、関係者の皆様のご指導のもと新しい技術にチャレンジでき、やりがいを感じながら新しい補修方法に取り組めた日々でした。関門橋リフレッシュ事業は始まってから10年以上継続している長期に渡る事業ですが、建設時の想いも踏まえつつ、いつまでも健全であることを目指していきたいと思います。
その後も建設工事、維持管理や大規模更新なども携わってきましたが、補修補強ではその原因を考えるのは当然ですが、この橋梁形式を選定した理由や設計者の想いは?なぜこのような構造になっているのか? など設計時点の設計者の気持ちを常に想像し、また、この補修補強が橋梁全体にとって本当に最適なのかを考えるよう心掛けています。
まだまだ全体俯瞰できる技術力は足りませんが、今後も技術研鑽に励みたいと思います。次は、私が設計業務を担当したときに橋梁設計のイロハを教えていただき、その後もお世話になっている富士ピー・エスの妹川寿秀さんにバトンを渡します。