国立研究開発法人土木研究所
構造物メンテナンス研究センター
橋梁構造研究グループ主任研究員
吉田 英二
これまでの記事を拝見すると、橋に魅了されたことをきっかけに橋梁分野を志した方が多いように感じます。私の場合は、今では橋を専門に研究していますが、最初から橋を目指してこの道に進んだわけではありませんでした。
大学で研究室を選ぶ際は、構造物の挙動を理論と実験の両面から探究できる構造力学の面白さに惹かれ、この分野を選びました。結果として、この選択がその後のキャリアに大きくつながっています。大学院修了後は、幅広い経験を積みたいという思いから公務員の道を選び、数年の現場経験等を経て、2010年に土木研究所CAESAR(シーザー)へ異動しました。ここから本格的に橋梁研究のキャリアがスタートしました。
研究所では、PC橋を中心にグラウトの品質調査や実橋を用いた耐荷性能試験、補修・補強技術など、様々な研究に携わってきました。また、橋梁上部のみならず、橋梁基礎の研究にも取り組み、H29道路橋示方書の改定に伴う設計便覧の改訂作業にも取り組みました。地盤も包含するこの領域は、それまで十分に触れてこなかった分野でしたが、視野が広がる貴重な経験となりました。こうして気づけばCAESARでの研究生活も15年を迎えました。振り返ってみると、橋の研究の奥深さに惹かれ続けてきたことが、今日まで歩みを続ける原動力となっていると感じています。
これまで、主に実橋に根ざした研究を進めてきましたが、とりわけ印象に残っているのは、実在のPC橋上部構造の破壊試験です。グラウンドアンカーを反力源とし、橋面上に設けたジャッキで外桁へ荷重を載荷した結果、約320トンで最大耐力に達しました。その際、主桁単体としてはせん断破壊の兆候が認められたものの、上部構造全体としては荷重が隣接桁へ再配分され、塑性変形を伴いながら支持能力を保持する挙動を示しました。実橋ならではの部材間の相互作用や冗長性が明確に現われた貴重なデータとなりました。
この研究は、当時京都大学から転入した大島義信さん(現ナカノフドー建設)をはじめ、土研メンバーと協働して進めたもので、学位取得へとつながったほか、関連論文が令和5年度の土木学会論文賞を受賞する成果にも結びつきました。実験室での基礎的な現象解明も重要ですが、実橋から得られる知見の価値を、この経験を通して改めて実感することができました。
ここ3年間は、R7道路橋示方書Ⅲ編の改定作業に携わり、設計思想の根幹を学ぶとともに、議論や検討の積み重ねを通じて、橋梁の安全性を支える基準づくりの重みを改めて実感する貴重な経験となりました。委員会・WGの委員の皆様をはじめ、関係者の皆様には、多大なるご支援とご協力をいただきましたこと、この場を借りて、改めて感謝申し上げます。
今後もこれまでの経験を生かし、橋梁の維持管理・更新に引き続き貢献していきたいと考えています。そのためにも、現場で実務を担う方々との対話を通じて課題を的確に把握し、その成果を技術基準などの形で社会へ還元していければと思っています。
次回は、R7道路橋示方書の改定作業で大変お世話になりました、オリエンタルコンサルタンツの林克弘様にバトンをお渡しします。
