神戸大学
名誉教授
森川 英典
1984年に神戸大学修士課程を修了した後、川崎重工業技術研究所強度研究室に約5年間所属して、橋梁、海洋構造物等に関わる研究・技術検討に携わりました。中でも阪神高速道路「東神戸大橋」に関する構造検討に関わったことが最も印象に残っています。
元々、長大橋建設に携わることを目指して土木工学科に入学し土木材料学・橋工学講座に所属したこともあり、このプロジェクトに関わることができたことはこの上ない喜びでありました。
その後、1989年に神戸大学助手に採用され、約36年間、教育研究に携わりました。
当時、土木材料学・橋工学講座は、西村昭教授、宮本文穂助教授、筆者、小林秀惠技官と学生で構成されていました。
また兵庫県内の撤去予定のRC橋を対象として宮本先生を中心として材料試験や載荷試験・破壊試験など大がかりな現場実験が行われており、私もそれに参加しました。西村先生は、「橋梁診断」研究をライフワークにされており、私もその研究に取り組むことになりましたが、私の着任翌年の1990年5月に西村先生がご逝去されてしまいました。1992年の3回忌には卒業生一同が協力し、記念出版「橋梁工学フロンティア」を刊行しています。
その後の私の研究は、「コンクリート橋の診断に関する研究」として、西村先生が示された橋梁診断研究の展望を受け継いで研究に取り組みました。研究を進めていくうち、劣化構造物の効果的な対策法についても問われることが多くなり、診断研究のみを行い、その対策法を示さないことは、社会に対して無責任であるということを強く感じ、補修・補強・モニタリングに関する研究にも取り組みました。
危険な劣化事象であるPC橋の鋼材腐食・破断にも着目し、その特性とメカニズムの解明、橋梁の構造安全性・信頼性に及ぼす影響についての研究に取り組みました。その結果、長期的な供用のためにはPC鋼材の防食補修が必要であることを示しましたが、2010年当時、国内外で効果的な補修技術は存在しませんでした。そこで、企業との共同研究で、「亜硝酸リチウム水溶液を用いたPC鋼材の補修方法」を研究開発し、実橋への適用を展開してきました。
また補修橋梁数橋において、センサーによるPC鋼材の電位測定モニタリングを実施しました。昨年度、その内の2橋において補修後10年目の測定を実施し、補修効果を維持していることが確認できました。
またPC鋼材破断は落橋に至る危険な劣化損傷であることから、破断の早期検知が重要であると考え、企業と共同で、FBG光センサーや磁歪式張力センサーなどを用いた、PC橋の変形挙動モニタリングを実施し、道路橋や山陽新幹線の橋梁に実装し、その安全性を確保することにも貢献しています。
一方、補修の繰返しによる維持管理コスト増大を抑制するため、表面保護工の高耐久化・最適施工の確立といった共同研究にも取り組みました。 本年3月に大学を定年退職した後は、これらの研究をベースにしながら維持管理の実務や技術開発の分野で社会貢献できるように取り組んでいます。
次回はこれまで長大橋の維持管理研究を一緒に行ってきた本州四国連絡高速道路の花井拓氏にバトンを渡します。