様々なことに興味を 惹かれる初心を忘れず

西尾 浩志株式会社安部日鋼工業
相談役
西尾 浩志

私が始めて橋を「橋梁」として見たのは、1977年三陸鉄道の、できたてのPC橋でした。大学3年、尾坂芳夫研究室の仲間との仙台からの旅、PCの斜張橋、上路式ハウトラス橋、ワーレントラス橋など先進的・挑戦的技術だとは未だ理解なく、ただ自然と同調し、装飾など全く無いのに、機能から滲み出る美しさを強く感じました。
宮城県沖地震がきっかけで、後藤幸正先生の鶴の一声で1980年安部工業所(現安部日鋼工業)に入社、PCが生涯の仕事になりました。
国産PC定着工法やPC斜張橋を日本で初めて作った初代の、破天荒な技術に向かう姿勢に強く惹かれました。入社後、片持ち張出し工法を知りました。橋脚上から左右にやじろべえのように少しずつ進み、支保工なしで架設する、子供がおもちゃを作るような自由で蟠り無い発想に心躍りました。
1989年、この工法を用いた日本道路公団上信越自動車道涸沢川橋の工事を担当しました。上り線を弊社がPC鋼棒を用い、張出し先端を片側ずつ施工するいわゆるディビダーク工法で、下り線を川田建設さんがPCストランドを用い、両側一編に施工するFCC工法で行い、道路公団が両者を比較するという注目度が高い現場でした。合理性を突き詰めた熟練職人技のような工法に対し、多少の無駄も飲み込む圧倒的生産性の工法という違いを感じました。移動作業車を製作し、操作が橋面上の一個所で簡単に行える操作盤、緊張作業等のためホイストビームを移動作業車の前面に設置など、新たな工夫をし、それが今も生きています。
超高強度繊維補強コンクリート(UFC)の施工を弊社でできるよう努力しました。若き精鋭技術者達の挑戦が結実し、曳田歩道橋(鳥取県、日本最大支間63㍍)で2007年度PC技術協会賞(施工技術部門)を受賞しました。自己収縮に起因する型枠の拘束力低減、UFCの連続性を確保した打込み等の新たな工夫が評価されました。
国土交通省を中心に推進されているアイ・コンストラクションに呼応し、PC建設業協会の技術幹事長(後に副会長・技術委員長)として、皆さんと共に2016年アイ・ブリッジ(PC橋梁の生産性・安全性向上の施策、プレキャスト技術の活用とICTの活用が二本柱)を取りまとめ、推進しました。
PCの緊張について、緊張力の算定・管理の方法等は、1950年代に定められた方法が、片持ち張出しのような複雑な構造にも基本的に変わらず使われています。特にセットロス(緊張鋼材定着の際、くさびごと引込まれ、緊張力が減少)、地盤の影響などは課題でした。田辺忠顕名古屋大学名誉教授を中心に中部地区の先生とPC業者の技術者が続けているLECOM研究会(2004年から130回以上、HPあり)で検討した内容を中心に、名城大学石川靖晃教授のご指導のもと、「PC構造における合理的な新緊張解析法の開発および緊張管理に関する提言」と題して論文にまとめ、本年2月に博士(工学)の学位を授与されました。七十路過ぎの向こう見ずな試みを皆様のご厚情で何とか仕上げることができ、僅かでも感謝を形にできたかと思っています。生涯現役で様々なことに興味を惹かれる初心を持ち続けたいと今は考えています。
次は、同じく博士取得に向け励まし合ってきた極東興和の山根隆志社長にお願いします。

愛知製鋼