橋とともに30年 

長益子 直人首都高速道路株式会社
海外・社会インフラ事業部海外事業推進課 担当課長
益子 直人

前回執筆者のサントス様よりバトンを受け取りました。首都高速の益子直人です。橋梁技術者として歩んだ30年は、橋が繋いでくれた恩師や先輩方との絆に支えられた道のりでした。感謝を込めて筆を執らせていただきます。
私の橋梁技術者としての原点は、埼玉大学での学びにあります。睦好宏史先生のもと、「2方向地震力を受ける橋脚の耐震性能」を研究しました。当時、ウィリアム・タンゾ先生には、まだ珍しかったアップルコンピュータでのグラフ作成や実験制御のノウハウを丁寧に教えていただきました。先生が勧めてくださった「Macintosh LC520」が、私の〝アップル沼〟への第一歩となりました。
1994年に首都高速道路公団に入社した翌年、阪神・淡路大震災が発生。橋脚の甚大な損傷状況を目の当たりにし、大学での研究が社会の安全に直結すると確信しました。
橋脚耐震性向上プロジェクトに携わる中で、研究への情熱が再燃しました。「もっと深く学びたい」。その思いから2003年より2年間、ニュージーランド国カンタベリー大学へ留学しました。日・米・NZ基準や損傷回避型設計(ジョン・マンダー先生考案)に基づくRC橋脚耐震性能の比較研究を行いました。そこで助けられたのが、恩師タンゾ先生開発の制御プログラムと、首都高の先輩である津野和宏様(現:国士舘大学)がカンタベリー大学留学中に製作した実験装置です。それらを融合させたシステムで実施した研究成果の一部が2007年に「オットー・グロガウ賞」(NZ地震学会)を受賞できたことは望外の喜びでした。
帰国後は生麦入口橋梁付替工事等のプロジェクトを経て、2016年に海外部門へ。フィリピンの橋梁耐震補強事業では、タンゾ先生と協働するという幸運な機会に恵まれました。先生は耐震ハザードマップ、私は耐震補強マニュアルを作成しました。現地政府向け説明会ではiPadやApple Pencil等を活用したプレゼンを、先生と試行錯誤しながら実施しました。恩師との20年ぶりの共同作業は、忘れられない経験として心に刻まれました。
2021年には、会社からエキスパート【橋梁(コンクリート)】を拝命。会社内外への情報発信や後進指導に努めつつ、2023年に再び海外部門へ。タイとの技術交流などに注力する中、2024年3月に睦好先生の呼びかけで開催されたセミナーに登壇しました。先生の前で緊張しながらも、予防保全の重要性を、バンコクで発信できたことは、睦好先生へ少しだけ恩返しになったと信じています。
2024年6月設立の「首都高インターナショナル・タイランド」取締役として、タイのさらなる発展に貢献すべく、地道な活動に取り組んでいます。
橋梁技術者として30年、常に尊敬する恩師や温かい先輩方の存在がありました。睦好先生、タンゾ先生、津野様をはじめとした多くの先輩方に、心より感謝申し上げます。
最後になりますが、タンゾ先生に〝アップル沼〟へ導いていただいたおかげで、今では新旧10台のアップル製品が(家族からは冷ややかな視線を受けつつも)私の宝物になっています。ご闘病中のタンゾ先生の早期回復を心からお祈りしつつ、これからも橋が繋いでくれた縁を大切に、技術の発展に貢献してまいります。
次は大学の同級生、清水建設土田様へバトンタッチします。

愛知製鋼