株式会社富士ピー・エス
関東支店 土木技術部長 兼 技術センター設計グループリーダー
妹川 寿秀
PC(プレストレスト・コンクリート)業界に入って、はや30年が経ちました。振り返ればその原点は、高校時代の担任の先生の「勘違い」にありました。
「建築」の道を志していた私に、先生が薦めてくれたのは佐賀大学の「建設・土木」学科。入学後にそこが「建築」ではないと知りましたが、土木工学が市民のための技術「シビルエンジニアリング」であると学び、この仕事に大きな意義や魅力を見出し、今ではこの勘違いに心から感謝しています。
1995年に富士ピー・エスに入社後、福岡支店で主に現場工事に従事。特に忘れられないのが、1998年に尾道市で経験した橋梁工事です。ヤードで製作したポストテンションT桁のクレーン架設を目前に控えた週末、台風10号の豪雨で河川が氾濫し、製作ヤードの盛土が流失、架設は延期。さらに、近隣地区では土砂災害で3名が亡くなられたとニュースで知り、自然の猛威を前に「市民のための技術」という言葉の意味と、その責任の重さを痛感。この経験が私の技術者としての原点となりました。
その後、設計部署へ異動し、2004年にはPC連続ラーメン波形鋼板ウェブ箱桁橋の設計を担当。『波形鋼板ウェブPC箱桁橋に関するコスト縮減検討委員会』での検討を通じてウェブ高さを統一するなど工夫を重ね、鋼重量を約30トン削減できました。
翌年から東京での勤務となり、新東名高速道路の設計などに従事する傍ら、PC建協やPC工学会の委員会活動にも参加。2012年からの2年間はPC建協事務局へ出向し、設計業務とは異なる立場から業界に貢献する貴重な経験を積むことができました。この時に得られた多くの人との繋がりは、私の貴重な財産です。
最近では、2020年に九州地方整備局佐賀国道事務所発注の千歳橋補修工事にECI(技術協力・施工)方式で参画。交通量が多い国道3号に架かるゲルバーヒンジ桁を補強した外ケーブルを取り替えるという難易度の高い工事でしたが、発注者・設計者と一丸となり無事竣工できました。また、PC工学会施工技術賞を受賞できたことは大きな励みとなりました。
社会インフラの維持管理が重要となる昨今、新設橋から床版取替や補修・補強工事が主流となっています。これらの業務は、建設当時の設計思想や施工方法の理解が不可欠です。そのためにも、ノウハウを次世代へ確実に伝承していくことが我々の責務だと感じています。
私自身、二十数年設計に携わりましたが、自ら設計した橋の施工には従事できなかった心残りがあります。だからこそ、これからの若い技術者には、設計から施工まで一貫した経験を積む機会を通じて、この仕事がまさに「市民のための技術」であることを実感し、その醍醐味である「やりがい」を感じてほしいと願っています。
次は、道路協会WGでご一緒させていただいている建設技術研究所の小川宗正様にバトンをお渡しします。
