私と橋の半生

小川 宗正株式会社建設技術研究所
中部支社道路・交通部構造室 室長
小川 宗正

気がつけば50歳。節目の年に本稿の執筆依頼をいただき、これまでの半世紀を振り替えてってみました。岐阜県で木材の製材業を営む家に生まれ、将来は家業を継ぐことになるのだろうと思いながら育ちました。中高時代は夏休みなど少し手伝いながら住宅の建築現場に行く機会もありました。そんな中、高校時代に将来のためにも大学では建築学を専攻しようと父親に相談したところ、公共事業を対象とする土木の方が建築より規模の大きな仕事ができると勧められたこともあり土木工学科に進みました。今から思えば、家業で縛られたレールではなく自分で決めたレールを進めというメッセージだったと受け止めています。
大学では、構造力学、橋梁工学、製図の授業をうけ、だんだん橋梁の設計に興味を持つようになりました。橋梁の主桁の部材設計演習では、許容値以内に収める繰り返し計算を電卓でするのが手間と考え、当時アルバイト代をはたいて購入したWindows95、エクセルを駆使してトライアル計算式を作成し最適解を求めました。
将来は橋梁設計に携わっていきたいという気持ちが芽生えましたが、設計図面から現地でどのように建設されるのか、現場も併せて経験してみたいとも思うようになりました。そして、大学の先生の紹介もありPCメーカーに就職しました。設計部に配属され、PC上部工の設計を先輩の後姿を追いかけ行い、現場の経験もさせていただくことができました。当時はまだ多くの新規路線の高速道路が建設中で、規模の大きい橋梁のプロジェクトも多数ありました。
インターチェンジの曲線を有するプレキャストセグメント箱桁橋や波形鋼板ウェブPC橋などの設計に従事しました。プレキャストセグメント箱桁橋では複雑に変化する車線拡幅や横断勾配に対して線形計算により部材長の決定、プレテンションPC床版の設計などを担当しました。波形鋼板ウェブPC橋において当時はまだ波形鋼板ウェブ自体の部材を設計する市販の電算ソフトがありませんでした。そこで、せん断応力度や座屈照査を断面力の入れ替えにより繰り返し計算で求めるエクセルを作成しました。大学時代の思い付きで行った経験が少し生かせたかと思います。
その後、貸与資料にあった下部基礎工設計の理解も深めたいと思うようになりました。公私ともに環境の変化もあり10年近くお世話になった前職を退職し、新たにチャレンジすべく現在の会社に転職しました。
経験してきたPC上部工の設計とあわせて下部基礎工の設計も行い、理解を深めることができました。また、いつかは長大橋のプロジェクトに携わりたいと思い続けていましたが、八ッ場大橋の設計の担当者として従事できました。今までにない苦労もありましたが、貴重な経験と達成感を味わうことができました。
時代が変わりつつありますが、永久に供用できる橋は現在ないと思います。いずれ架け替え更新が必要で、橋梁技術者も求められます。自分が身につけた経験やスキルを、次世代の技術者に伝えていきたいと思います。
次は、PC工学会の委員会や新東名高速道路橋の設計でお世話になりました三井住友建設の紙永祐紀様にバトンを渡したいと思います。

愛知製鋼