理論・実践・幅広い経験

花井 拓本州四国連絡高速道路株式会社
長大橋技術部次長(兼)技術支援課長
花井 拓

父親が建築の構造設計を行っていたことから、子供の頃から、建築のことをよく教えてもらっていました。このような環境から、自分も建築設計士になるだろうと考えていたのですが、いろいろとあって、大学は少し変化して土木工学を専攻することになりました。また、母親の実家が高知だったこともあり、幼少期から瀬戸内海をフェリーで渡っていましたが、大学生の時に瀬戸大橋が開通し、家族で真新しい橋を渡ったことが私の橋に対する原体験になったのかもしれません。
橋梁に携わるこれまでの私の経歴のベースになっているものとして、耐風工学と信頼性理論があります。横浜国立大学の構造研究室では、宮田利雄先生、山田均先生の指導のもと、卒業研究として明石海峡大橋主塔の耐風性についての風洞実験を、さらに修士課程では明石海峡大橋のガスト応答解析を行いました。この期間に実際に風洞実験のセットアップから実験までを自分の手で行い、解析プログラムを一から作った経験は、本四での業務の中でも生かされることが多かったです。
入社後に留学させてもらったコロラド大学ボールダー校ではフランゴポール先生から信頼性理論を学びました。信頼性理論は、現在の道路橋設計に用いられている部分係数設計法の基礎となるものです。様々な不確実性を確率的に捉えて構造物の安全性を定量的に評価するという手法には目から鱗が落ちる感じでした。吊橋ケーブルなど死活荷重比が大きい部材では部分係数設計法が従来の許容応力度法よりも合理的となるため、本四でも以前より検討されていたもので、ここでもその知識は役に立ったと思います。
入社した本州四国連絡橋公団では、多々羅大橋、来島海峡大橋の設計、明石海峡大橋の建設現場(ケーブル工事などを担当)を経験させていただきました。また、本四架橋完成後は、瀬戸大橋の維持管理を経験しました。現場では、実際の構造物をつぶさに見て触れることが現象の理解につながるということを強く感じました。
その後、本四以外の経験として、アフリカのケニア、土木研究所への出向をさせていただきました。ケニアでは舗装維持管理が担当でしたが、ある時都市周辺の幹線道路の損傷橋梁を見る機会がありました。そのコンクリート橋は引張鉄筋が破断しているのに予算がないため放置されている状態で、その時は「途上国ならではだな」と感じました。
一方その後の土木研究所では、日本全国の劣化橋梁の調査や、撤去された橋梁の解体調査などを行いましたが、日本の劣化橋梁の中には、ケニアのその橋梁以上に激しい劣化が生じているものもあり、「ちゃんとした維持管理がなされていなければ先進国でも落橋は起こりうる」と認識を新たにしました。
本四高速に帰ってからは、長大橋維持管理の技術開発などに携わっています。また最近では国内外の橋梁への技術支援も進めようとしています。この技術支援では、学校で学んだ理論、本四で学んだ長大橋技術、土木研究所で学んだ劣化とその補修・補強に関する知見、さらには海外での経験などを生かして貢献できたらと思っています。
次は、修士課程時に大変お世話になった建設技研インターナショナルのサントス・ホビト・クルズさんにバトンをお渡ししたいと思います。

愛知製鋼