
左から
内田光昭副理事長(親和架設工業株式会社代表取締役)
黒﨑伸介理事長(黒﨑建設株式会社代表取締役社長)
内宮昌利理事(内宮運輸機工株式会社代表取締役社長)
橋梁業界は今、新設工事の発注量が激減し、苦境に立たされている状況だ。予算の増額などで建設業界自体は復調の兆しが見える中、橋梁業界は乗り上げた暗礁から離れられる見通しは立っていない。そんな苦境の中で、世界情勢の悪化や世界的に見られる物価高の影響を受けて、鉄製品や建設資材、石油関連などの資材高騰、熟練した職人たちの高齢化、少子化による若い人材の供給不足、働き方改革への対応など、未だ多くの課題が立ちふさがっている。今回は日本橋梁鉄骨事業協同組合の理事会の方々にお集まりいただき、人手不足と仕事不足、職人の高齢化と若手人材の確保、外国人労働者の育成環境、働き方改革と賃上げの影響、ICTや最先端技術への対応、2050年カーボンニュートラルに対して現場ができる事など、業界が現在抱えている多くの課題への対応策や今後の展望などについて座談会形式でお話いただいた。
(川村淳一、塩野耕生)
架設業界は「人手不足」よりも深刻な「仕事不足」
――各業界にて「仕事不足」や「人手不足」が深刻化している現状についてその影響はどれぐらいあるでしょうか
黒﨑理事長:架設業界は仕事不足が深刻です。今は同じく仕事の少ない内田副理事長の会社とお互い連携して、応援を出し合いしながら凌いでいるといった現状です。
内宮理事:建設業界全体では仕事量はかなりあるので人手不足の面もあります。ただし橋梁関係の仕事となると少ないように思います。橋梁のとび職というのは特化している部分もあって、そういった特別な仕事というくくりでいえば足りない印象を受けます。
――それは公共事業が減ったということになりますでしょうか。予算自体はあまり減っていないと思いますが
黒﨑:予算は増えていますが、その分物価高の中で資材の購入などでコストがかかってきますで、結果として仕事量は減っています。
――物価高に対する補填や労務費などの分が予算に加算されているとして、その分が下請けまで下りてくる額は以前と変わらない状況になっているのでしょうか
内宮:労務費については、ここまで上げるといった基準がありますので、そういった意味では多少の恩恵はあるはずですが、予算全体の中でいろいろなものの価格が上昇しているため、受注単価が上がっても、これが下請け業者まで降りて来ないのが現状だと思います。
黒﨑:ですが、交渉の場などで話していると「仕事がない」というのは元請の方々にとっても深刻な問題です。今後賃上げの要求においては、職人育成などわれわれの課題をしっかりと理解を得ていただけるよう交渉していく必要があると思います。
――内田副理事長も同意見でしょうか
内田副理事長:はい。継続して3~4年工事を行っている現場などが、現場の都合で1年くらい止まった時には、上げてもらえるように交渉しています。
――価格交渉については前回の弊紙主催の座談会(約7年前)のときと比べて風通しが良くなっているということですか
黒﨑:交渉をするといった点では断然良くなっています。取適法の施行も相まって客先のご理解も一段と上がってきたのではないかと考えます。ただしゼネコンは課題込みの発注を行うことが多いため、それを受けられないとすると全体に影響が及んでしまうことになるために、そういった状況が後押しされていくと多少は取り合えなくても受注せざるを得ないといった環境にもなりつつあります。
――アメリカなどの海外諸国ではエッセンシャルワーカーがブルーカラーミリオネアになったと言われていますが、日本は全くここまで行く気配がありません。それについて思うところはありませんか
黒﨑:施工者が減ってくれば高値で発注せざるを得ないと思います。アメリカは配管工などの技能職人が極端に少なくなってしまったから、そういった状況になったと思われます。
ただしこの流れも10年くらいで、ロボティクスなどがどれくらい発展するかによって状況は一変し、また入れ替わると思いますので、長期的には読むことはできないと思います。
若い人材をどうやって増やすか
充実した手当で「コスパ」をアピール
――内宮理事にお伺いいたします。運輸や輸送も業務として行っていますが、そちらの仕事不足や社員の処遇改善などについては
内宮:仕事量自体はそんなに減っておらず、必要な量は確保出来ているといった状況です。そのような中で働き方改革への対応をしなくてはなりませんが、若い人が入ってこない、思うように人を増やせないという点では、今いる人の負担は減りませんので、対応していくのが非常に厳しいといった状況です。
――若い人がなかなか入ってこないという点について、国交省から建設現場において熟練工は現在4割が55歳以上、30歳以下が1割くらいだという発表がありましたが、そういった状況では技術の継承が難しくなるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
内宮:お互いに人を融通しあって、足りないところに人がいるところから行く、といったことができていますが、人の流れ、技術の流れが業界の中で横に流れているだけで、下から新しい人が入ってこない。今は高年齢でも働くようになりましたが、熟練の方々がある時を境に引退してしまい、その時に若い人が入っていなければ、人も足りないし技術も継承されていないといった状況に陥るのが大きなリスクになってしまうと思います。
黒﨑:若い人が一番考えるのは報酬面だと思います。若い人は「コストパフォーマンスが悪い」とよく言いますが、この業界は悪すぎます。高所や閉所、酷暑・酷寒の厳しい現場環境の中で懸命に働いているにも関わらず、あまりにも実入りが少ないと嘆く職人さんのなんと多いことか。夏場の熱中症対策として作業時間の短縮、危険作業手当などを付与するなどの柔軟性を持たせないといけない。しかしながらそういった制度を採用するにしても原資がない。そういった制度が無いことがわかると入ってくるわけがない。そのあたりから改善していかないと、若い人の新規加入は難しいと思います。
――若い人たちがなぜ建設現場で働きたいと思えないのか、今と昔では気質が変わっているとは思いますが、それについての認識はいかがですか。若い人たちにどうやって夢をもって建設業界で働いてもらえるかというこうとについてどうお考えでしょうか
内宮:気質はもう今と昔では大きく違いますね。プライベートの時間を重視して、休日は休みといったように。ただそういった中で、暑いところ、寒いところ、高いところ、暗いところなどの危険と隣り合わせの仕事をしていて、それに見合う報酬が得られなければ自分の仕事に誇りが持てない。これだけの収入があるという実感がなければ続かないというのもわかります。いくら生産性やDX、自動運転やロボットなどと言っても、最後は人間がやらなくてはならない部分が建設業界の場合多くあります。このままいくと担い手がいなくなってしまうという危機感を強く持つ必要があると思います。
外国人労働者に対する風潮の変化
長期間育成できるような制度を
――前回の座談会では外国人労働者はあまりいなかった印象ですが、今はどのぐらいの割合でいるものでしょうか
黒﨑:私の会社は、当時は全然いなかったのですが、ここ5年間で5人ほど増えましたね。外国人労働者も同様に今は昔とは違って客先が外国人労働者を拒否することも少なくなるなど、世の中の風潮が変わってきています。彼らの手助けがないとマンパワーが生み出せなくなっていますので、最初は何もできなくても、現場に入れていろんな知識や言葉などを覚えながら、育てていくといった雰囲気が少しずつですができてきました。
内田:私のところは昨年の3月ごろから仕事が少ないのであまりいませんが、2年前は下請業者が5人ほど連れてきていました。
内宮:クレーンのオペレータやトレーラの運転手などに外国人労働者は難しいと考え、当社では基本的に採用していません。もし可能性があるとしたら、構内作業などに限られた人数を入れることになるのではないかと思います。
黒﨑:育成制度が適切な形になることが望ましいと思います。たとえば、私の会社にはフィリピンから3人の実習生が来ていますが、そのうち1人が上手く育ってくれれば良く、その人を頭にして、その国から他の人を雇って入れた際に、指導などをその人に任せるなどしていきたいと思っています。ですが3年、5年という短い期間で帰国するといった条件では育っていきませんので、長く残ってくれるような人がいるのであれば、その人を大事にし、後々その人をリーダーにして、その人の元に新しい人が来てくれるといった好循環が生まれればいいなと思っています。
働き方改革の問題は対応に難あり
単価は増えても実感沸かず
――働き方改革の残業時間の上限規制について、実際に現場で働いている職人たちからの声はどうでしょうか
内宮:当社の中での印象ですと、今いる人たちはもっと仕事をしてもっと収入を増やしたいという人のほうが多いです。ただ、これから若い人を求人していく中で、彼らの考え方は「もっと休みが欲しい」という方に傾いている。
今そういった意味では過渡期で難しいところだと思います。元からいる人と、新しく入ってくる人の考え方が違う、逆であるという意味でお互いに不満に思うこともあるのではないでしょうか。
内田:24年問題のときと比べると、就労日数は当然減っています。年間で30日だけですが、年収でいいますとそれは増えています。会社の収益も、報酬をお客さんに上げてもらっているので、こちらも増えています。単価も上げていますが、実際貰っている人たちの実感が沸かないのではないかと思います。
内宮:実感として単価を上げていても、以前だったらもっと残業時間も多くたくさんできたのに、させてもらえないから大きく変わらないということもあります。
黒﨑:単純に土日休みになっています。就業日数自体が減っているため値上げで補填できているところはほとんどありません。
人口減少のグランドデザインを
都会と地方の格差を解消
――技術者の給料を上げたことによって会社の経営環境を悪化させていることはありませんか25年に建設業者の2千~3千社の倒産があって、それもやはりそういう方々が技術者の給料の上げ幅によって経営が悪くなったという話も聞きます
内宮:そのような問題もありますが、経営者の高齢化や後継者問題も影響しています。若い人がなかなか採用できず社員が高齢化する一方であり、経営者自身がリタイアする時期と彼らがリタイアする時期が重なってくるのであれば、そこで会社自体を終わらせてしまっても、といった考えも多い気がします。これから日本の人口が減少していくこともあり、経済規模は当然縮小する。日本がこれだけの国土の中に、1億2千万人が8千万人まで減ったとしても、それに見合った経済は作れるでしょう。問題は今から25年や30年かけて縮小していく中で、そこにたどり着くまでの過渡期の苦しみが非常に大きいのだと思います。
黒﨑:人口が減っていくのは確実なのに、現状を維持するのにはどうしたら良いのかといった考え方が主流で、まともなグランドデザインが描けていないというのが問題です。8千万人の国をどうやってつくっていくか、そのためには何をしたらいいか、ということがどこにも出てこないということが問題なのではないかと思います。
都会はまだ人口が増え続けていますが、田舎は過疎が深刻といったアンバランスなところもあり、逆に流動的な人口増減をバネにして経済成長できるような体制を組むというのも重要かなとは思いますが、実際はそれに対応できずにいる。過疎を放っておいたらもっと過疎になり、地方の業者も減り、緊急時に対応できる業者も当然減ることになります。
内宮:都市と地方では仕事量は圧倒的に違います。例えばクレーンを走らせていくのに近くに現場が無ければ、遠くの現場に走って行って、それにはコストに差が出るのは当然です。でも仕事を取っていかなければならない、うまくいろんなところに仕事を振り分けられればいいのですが、さきほど話したようにそれが1億2千万人から8千万人になるのであればどうやってバランスを取っていくのか、もっと広い目、長い目で見ていかなくてはならないと思います。
最新技術にはコストの高いハードル
補修工事は検条件が改善
――皆さんが行ってきた橋梁工事で一番記憶に残っている橋はどういった橋なのでしょうか
内宮:明石海峡大橋です。クレーン作業のほか、特殊な車両で桁の橋上運搬をしました。当時最新の機材を使用して会社としてのエポックになりました。日本一長い橋ということもありますし、阪神淡路大震災の発生など、劇的だったと思います。
内田:東日本大震災のときにやった復興系の現場です。当時、現場パトロールを石巻の現場で行っていたということもあり、私自身も被災しました。その周りだけかと思ったらあちこち被害があってということがありました。
復興の現場では被災した宮城の職人に仕事を頼んでいましたが、こういう時に大変かと思いましたが、かえって仕事がある方がありがたいと言われたこともありました。
黒﨑:私は一番長くいたことや、いろいろなことが起こったことを思うと、来島海峡大橋です。明石海峡大橋もエポックメイキングな橋ではありますが、いろいろとイベントの起こったこちらの方が私は思い出深いです。
――そういった記憶に残る橋をつくるときに、最新の技術的なものに多く触れると思いますが、最近はいかがですか。例えば人の補助をするパワーアシストなどの新しいロボティクスなどのような技術は導入が増えていますでしょうか。
黒﨑:まだ出てはいないと思います。最新技術、ICTと言えば一番増えているのはドローンですね。ドローン測量や点検などは増えていると思います。ただそれ以外のことはコストの面もあるので、なかなかハードルが高いところなのではないかと思います。
それに技術に対する知識も、会社自身に足りていない。本格的にそれらの知識のある専門家と、純粋に建設事業をしている人がコラボして作っていかないと、なかなかできないのではないかと思います。掛け声ばかりで、何をやったらいいかわからない、「それをやると便利ですよね」で終わってしまって、真剣に考えるまでいかないことがほとんどですので、それをやっていかないとどうにもならないと思います。
内宮:クレーン業界でいえば、メーカーがどんな機械を作るかというところが大きいと思います。安全対策、機械の制御などは格段に良くなってきています。ただ、この先は自動運転やロボットなどの世界に入ってくると、かかるお金の桁が違ってくるでしょう。日本中のものを全て入れ替えるとなると、何十年という時間もかかるのではないかと思います。規制でどこまで自動を許すのか、どこまで安全が確保されるのか、また技術開発にかかるコストなど、多くの課題をクリアしていかないと、なかなか実現しない問題なのだと思います。
――新技術の適用工事は新設で実施するイメージでしたが、補修工事などでも適用されることが増えています。そういった新しい技術で補修分野をやっていこうという風潮についてはどうでしょうか
内宮:補修に関しては、検査技術はかなり進歩してきているので、どんどん進めなければいけないと思います。笹子トンネルの天井崩落や八潮の道路陥没などがありましたが、全国的に古いインフラが多く、橋についても同様のことがいえます。状況把握をどのように網羅していくかが当面の課題かと思います。
黒﨑:補修は条件がすごく良くなりました。積算もきちんとやってくれますし、設計変更にも協力的になりました。私としても補修専門のチームを作って、補修を継続的に行っていく方針は取っています。
海外事業と展開の難しさ
技術継承に工事は必須
――設計が多く出た地域では翌年は下部工も出て上部工もでるという印象ですが、特に今後注目しているような事業や計画はありますか
内宮:第二関門橋は建設業界だけでなく運送業界でも早期実現してほしいという声が上がっています。平成23年に関門海峡フェリーが廃止になって、今の関門橋は重量制限が厳しくて通れないのが現状です。例えば、50㌧~60㌧積載するような大型トレーラは、九州から広島などに走る際に、フェリーで神戸まで行って、神戸から広島に戻るといった大回りのルートを取っています。
全日本トラック協会と福岡県トラック協会が正式に要望を出していますが、例えば車両総重量60㌧、幅3・5㍍、高さ4・3㍍まで走れるような橋梁にしてほしいという内容です。
黒﨑:第二関門は吊り橋ですが、結局最近そういった橋をつくった経験が少なすぎて技術的にできないなんてこともありえます。十年二十年単位で一回はやっておかないと、吊り橋のワイヤーすら触ったことのない職人ばかりになってしまうので、吊り橋などの技術が必要な橋梁工事で、技術継承につなげていこうということをやってもらえれば良いと思います。
――昔は吊り橋の技術などで海外展開する会社もありましたが、今から海外での仕事をするようなことはありますか
黒﨑:企業としてのスケールの問題もあれば、技術的な問題もありますが、契約がこれもまた難しい。結構、日本式の契約で進めたために、後でとんでもないことになるなんて話もよく聞きます。
国内で仕事が無いときは海外に行って仕事を取ってくる話も重要視されていましたが、今は撤退してしまった会社が多いです。習慣の違いや文化の違いがネックです。日系企業の工場を建設するため海外に渡ったことも過去にはありましたが、最近はそういった工事も少ない現状です。
――海外の建設工事減少の理由の一端に、資材の高騰などもあると思います。資材の高騰について、みなさんはどういったところに強く感じていますか
黒﨑:基本的には仕事柄、鉄部品に強く感じています。
内宮:燃料もそうですし、クレーンそのものが高騰しています。機種にもよりますが、2倍前後は高くなってきている状況です。賃貸料も上げていかなくてはならないと思っています。
カーボンニュートラル・生産性向上
現場で何ができるか
――2050年カーボンニュートラルを日本も進めていくという方針ですが、それについて現場で行っている取組みはありますか
黒﨑:あまりないように思います。カーボンニュートラルという考え方は現場にも浸透していますが、実際に計算式をどうしたらいいかなどといった細部がまだ決定されていませんので、対応しかねています。ほかの会社がやり始めたらわれわれもといったことが現状ではないかと思います。
――生産性の向上についてはいかがですか
黒﨑:生産性の向上は「社員」の問題という考え方が多いです。現場で作られているものはたくさんある中で、DXを導入して仕事を分配しながらうまく運んでいくと、効率化はできるのかなと思います。
内宮:われわれ各社が仕事の効率を上げることが現場の生産性向上につながるかといわれると、その影響は微々たるものです。やはり設計段階からそういった計画にも参画し、その前提で仕事をさせてもらう中で初めてできることではないかと思います。
黒﨑:効率化というのはAIの活用が基本と言われていますが、業界内でもこれからの研究課題といったところが現状ではないでしょうか。それにわれわれがいくらやろうとしても限界があり、やはり総合的にみて元請や発注者が考えたうえで、下請にこういう活用はどうかなどのやり方を提示していただき、それがうまく回るようになって初めて生産性が高くなる可能性が出てくるといえると思います。
内宮:例えばこのクレーンを入れたらもっと効率的にできますよ、というような提案をさせていただいて、コストダウンや工期短縮などにつなげるということできると思います。
内田:それは重要ですよね。やはり風通しの良い環境を作っておかないとそういった提案や改善ができませんし。日々の小さな生産性を上げるという活動を現場でやっていくということがわれわれに今できることだと思います。
――ありがとうございました。