株式会社ホシノアーキテクツ
代表取締役
星野 裕明
私は、街スケールの高層建築から住宅、広場のようなランドスケープ、テーマパーク、住居のインテリアに至るまで、幅広いスケールのデザインに携わってきた。そうした多様な設計活動の中で、幸運にも橋のデザインに取り組む機会を得た。2024年3月に開通した、東京湾岸エリアの勝どきと晴海をつなぐ人道橋「黎明小橋」である。
橋という存在を強く意識するようになった背景には、これまで出会ってきたさまざまな橋の記憶がある。早稲田大学で建築を学び、大学院で意匠設計を深めた後に移り住んだロンドンでは、ヨーロッパの橋がもつ豊かな意味に強く惹かれた。
たとえば、ロンドンの観光名所でもあるタワーブリッジ。その美しい造形だけでなく、左右のゴシック様式の主塔を結ぶ上部空間には博物館機能が組み込まれ、貸切イベントなどにも活用されている。橋が単なる交通インフラではなく、人々が滞在し、体験を共有する「建築」となり得ることを示す象徴的な存在だった。
また、パリのポン・デ・ザールでは、かつて無数の南京錠が欄干を埋め尽くしていた光景が印象に残っている。現在では安全上の理由から撤去されているが、人々が橋に願いや記憶を託し、街に新たな物語を重ねていく。その姿は、橋が都市のランドマークとして、人と街との関係を豊かに育む装置であることを教えてくれた。
さらに、ロンドンのミレニアムブリッジ。ノーマン・フォスターが手がけたこの橋は、歴史的なランドマークであるセントポール大聖堂と、現代の文化拠点であるテート・モダンを結ぶ。異なる時代を接続しながら、歩くことで都市を新たに体験させるその設計は、橋そのものが都市を読み替える視点になり得ることを示していた。
こうした橋との出会いを通して私が強く感じたのは、橋とは「つなぐ」ためだけの構造物ではなく、人と場所、時間と記憶を結び、新たな風景を生み出す存在だということである。
「黎明小橋」のデザインでは、その思想を東京の水辺に重ね合わせた。穏やかな水面に広がる波のように、橋全体に柔らかな曲線を与え、連続する白い部材を水上に浮かぶように配置することで、軽やかで繊細なウェーブを表現している。水面に映り込む橋の姿は、実体と反射が重なり合い、幾重にも波が広がっていくような印象をつくり出す。
また、三次元的に変化するその形態は、見るだけでなく、渡ることでその動きを身体的に感じられるよう意図している。橋を歩くこと自体が、小さな体験となるようなデザインである。
夜には、照明が季節や曜日に応じてゆっくりと色を変えながら、橋に異なる表情を与える。上下で異なるリズムを持つ光のグラデーションが重なり合い、その瞬間ごとに異なる色彩の組み合わせを生み出す。日々この橋を目にする人々にとって、そのわずかな変化が、新しい街の時間の流れを感じる小さな楽しみになればと考えた。
橋は、場所をつなぐだけではない。人の記憶をつなぎ、街に新しい物語を生み出していく。
「黎明小橋」が、この湾岸の風景の中で、そうした存在として育っていくことを願っている。
次は、「黎明小橋」のトラス製造・架設で協力いただいた西川宇市郎氏にバトンを渡したいと思う。
