メンテナンス一筋26年

木田 秀人ショーボンド建設株式会社
補修工学研究所副所長
木田 秀人

豊橋技術科学大学で3年間地盤の地震動の研究を行い、1995年ショーボンド建設に入社しました。2年目の6月、埼玉県大宮市から茨城県つくば市への移転に伴い、名称を変更した補修工学研究所に異動しました。3年間ゴムタイヤ式の輪荷重走行試験機を用いたPC床版の疲労耐久性の研究などを行いました。 1999年に大阪支店の技術部に異動し、橋梁の耐震補強や支承取替工事の設計を担当しました。当時、阪神高速道路の詳細設計付き耐震補強工事が多数発注されており、合同設計打合せなどを通して耐震補強設計の基本を学び、その後上部工と下部工の耐震補強工事の詳細設計の経験を積みました。 2007年に当社で初めてとなる鋼斜張橋の耐震補強工事を行いました。阪神高速道路湾岸線の東神戸大橋で、2年工期の詳細設計付き工事に、設計担当と工事の監理技術者として従事しました。設計として1年間、地震波の設定や動的解析、官学民共同でゴムダンパーの開発を行いました。 ゴムダンパーは、縦置きした4基の高減衰積層ゴムで連結板をサンドイッチしたダンパーを塔の水平梁部に設置し、連結板と主構に設置した鋼製ブラケットを拘束ケーブルで接続し、桁にかかる地震力を履歴減衰効果により低減させ塔に伝達する橋軸方向の変位制御装置です。既往の橋梁で実績がないことから、阪神高速道路から京都大学にゴムダンパーの水平特性試験とせん断変形性能試験が依頼され、五十嵐晃先生にご指導頂きました。 大学および製作工場で組立の施工性の確認も行いましたが、工事としては部材の取込みに苦労しました。重量25トンのゴムダンパーを5分割し、本線からクレーンを用いて塔と主構の隙間1・7メートルから夜間規制で取込み組立てを行いましたが、1度目は手間取り規制解除時間までかかりました。2度目は協力会社と何度も相談し架設治具などを工夫した結果、順調に作業が完了したときの満足感は一生忘れないと思います。 その後、2010年に神戸市みなと総局のハーバーハイウェイの海上部長大橋6橋の詳細設計付き耐震補強工事を、設計管理・工事監理技術者で従事しました。日本初のダブルデッキアーチの神戸大橋をはじめ、6橋とも斜張橋、トラス橋、アーチ橋、ラーメン橋、桁橋と異なる構造でした。5橋は兵庫県南部地震で被災し復旧されており、一部の部材に残留変形があり、前号の具志さんがご担当された先進的な基本設計をもとに、竣工図、復旧図から現地確認・計測を複数回実施し詳細設計を行いました。 橋脚上への大型部材の取込み時,スパッド台船のクレーンブームが桁と干渉して使用できない代替として、台船に設置したマルチベント上部から横移動するなど架設を考慮した計画を行い、1年の限られた工期で鋼材重量1170㌧の設計と施工を完了しました。 2011年、東神戸大橋は「制震技術による長大斜張橋の合理的耐震補強」で土木学会技術賞、「耐震性能グレードを考慮したハーバーハイウェイ長大橋部の耐震補強事業」は土木学会関西支部技術賞を受賞しました。自ら設計を行い工事の監理を行うのはプレッシャーを感じましたが、この2工事の経験が私の礎となっており、発注者、コンサルタント、協力会社、製作工場および同僚の方々に感謝しています。 京都大学でのゴムダンパーの確認試験がきっかけで、京都大学の博士課程に入学し、杉浦邦征先生、五十嵐晃先生にご指導いただき、2014年「漸増動的解析(IDA)に基づく既設長大橋の耐震性能評価に関する研究」で博士号を取得しました。 2021年4月に22年ぶりに補修工学研究所に異動しました。2018年に鉄輪式の輪荷重走行試験機を導入しており、ゴムタイヤ式と鉄輪式の試験機を駆使して、床版の研究開発を行っていきたいと考えています。次は、引き続きご指導頂いている京都大学の北根安雄先生にバトンをお渡し致します。

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