床版のあるべき姿

田中 泰司金沢工業大学
工学部環境土木工学科准教授
田中 泰司

2004年に東京大学の博士課程を中退して、長岡技術科学大学に助手として着任して以降、橋梁の塩害やASRについての研究に携わってきました。大学で働きはじめてから10年ほどたった頃、内閣府で戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)というプロジェクトが始まりました。
そのプロジェクトに参画するため、前川宏一先生に声をかけていただき、東京大学に戻ることになりました。
SIPでは藤野陽三先生がプロジェクトディレクターを務められ、インフラの維持管理・更新・マネジメント技術の研究開発を行うことになりました。主要なターゲットのひとつが道路橋RC床版です。SIPでは他国の状況を把握するために、2015年3月にオーストリア・ドイツの橋梁のメンテナンスの視察が行われ、私も同行させていただきました。
特に印象に残っているのは、ドイツでは床版防水が最低でも二重、場合によっては三重、四重とするように基準が整備されていたことです。もともと床版厚が大きいこと、また鋼桁にRC床版は載せないという設計思想などが功を奏しているのだと想像しますが、ドイツでは床版の劣化が問題にはなっていないと説明を受けました。ノルトライン・ヴェストファーレン州の担当者に、なぜそのような厳しい規則になっているのかと尋ねたところ、その担当者は、経緯は知らないがルールだからそれを守るのが当然だと毅然とした顔つきで答えました。規則とその運用の徹底ぶりを目の当たりにして、ドイツ人の質実剛健な気質に感心をしました。
同じ頃、土木学会コンクリート委員会で、疲労破壊に関する研究小委員会が立ち上がり、幹事として参加することになりました。委員長は日本大学の岩城一郎先生です。コンクリート床版の疲労破壊を検討するワーキングには、様々な専門のメンバーが集まりました。
舗装や防水材の専門家からは、コンクリート床版上面の平坦性が不足しているという問題提起がされました。一般にコンクリート床版の表面は人力による左官仕上げが行われますが、上手な人でも10ミリ程度の凹凸ができてしまいます。これによって、床版に滞水が生じたり、舗装打ち換え時にうまく剥がせなかったりする不具合が生じることがあります。
ヨーロッパでは床版上面は機械仕上げするのが普通で、平坦性は日本よりもはるかに高いということを聞きました。床版の寿命は水があると極端に低下するため、防水・排水を徹底しないといけません。前述のSIPでは、簡易な床版仕上げ機をNIPPOの荒井明夫常務に製作してもらい、実橋で試行し、効果を検証してもらいました。将来的には、滞水などの不具合を無くすために必要な平坦性はどの程度なのかを明らかにして、床版施工の要求仕様として明記すべきでしょう。
床版、防水層、舗装が三位一体となって床版システムが構成されています。その三つが調和して、はじめてシステムがうまく機能します。床版を作る人は、その後に行われる防水工や舗装の現場を見ることがないわけですから、先ほどの平坦性不足にも自分では気づくことができません。この問題を解決するためには、それぞれの専門分野を横断したネットワークと議論が必要です。そこで、2016年から3年間、道路橋床版システム三位一体勉強会という私的な勉強会を立ち上げ、各分野の若手技術者に参加していただきました。これからも床版のあるべき姿を追求し、実現していくために活動を進めていきたいと思っています。
次回は、富山県立大学の伊藤始先生をご紹介いたします。

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