愛着のある橋

松尾 大介株式会社オリエントアイエヌジー
設計部 次長
松尾 大介

皆さんには、『愛着のある橋』はありますか?私には『愛着のある橋』があります。そこは、長崎市の出島に架かる出島表門橋です。 私は、土木工学を専攻し1997年大学卒業後、地元である長崎の建設会社に入社し、主に上下水道工事の施工管理を行っていました。2005年30歳の時、現在のオリエントアイエヌジーに転職し、設計業務に従事する日々を過ごしていました。2013年11月出島表門橋・出島表門橋公園の設計チームの一人として参加したことが、出島表門橋との出会いでした。設計者有志一同で2015年5月に『出島仮囲い実行委員会』として発足し、2016年からは、『出島表門橋架橋プロジェクトイメージアップ実行委員会』、2018年4月より市民団体『DEJIMABASE』として、現在コアメンバー5人で活動しています。 DEJIMABASEでは、出島表門橋を中心とし、出島エリアを盛り上げる活動を行うとともに、地域の自分達のインフラを自分達で大切に使い、守っていく活動として『はしふき』を毎月、第2、第4月曜日PM18:30からDEJIMABASEのメンバーや表門橋に愛着を持つ方々と行っています。『はしふき』とはその名のとおり、雑巾で表門橋を拭くことです。 出島表門橋は、橋長38・5m、主径間33m、幅員4・5mの2径間鋼連続版桁橋で基本構造は、主桁2枚の鋼板(sm570材)と座屈止めの補剛材、横桁、ブレースから成り、開口部が多く、特殊な形状であるため、拭きごたえ満載の橋です。 『はしふき』は2018年1月から行っており、2021年12月13日で94回、来年3月14日で100回目を迎えます。 はじめて表門橋を拭いた時の感触は、橋が持つ曲線の柔らかな質感が手に伝わり何とも言えない愛着が湧いたことを覚えています。 冬、長崎とはいえ、この時期は水も冷たく手が悴むこともありますが、楽しんで拭いているうちに体がポカポカして汗ばんできます。余談ですが、雪が表門橋に降り積もることがあり、静けさの中に凛とした表門橋は何とも言えない美しさがあります。 春、この時期は中国から黄砂の影響を受け、表門橋に砂が被ります。そのまま拭いてしまうとステンレスフレーク入りフッ素樹脂塗装を傷つけてしまいますので、一度水をかけて砂を払い落とした後拭いています。また、この時期は鳥の飛来が多く、よく糞を表門橋に落としていきます(笑)。 夏、長崎の夏は暑く夕方18時30分には、まだまだ日は沈みません。表門橋はその日の熱を吸収して生温かく、拭いている雑巾も温かくなります。ライト周りを忘れずに拭いて19時からのライトアップに備えます。 秋、この時期は暑からず寒からず一年で一番心地良く拭くことが可能です。観光客の方が夕日をバックに、表門橋の手すりに手を添えて写真を撮られますが、手すりの材料は木材なので手すりに棘がないか気を付けながら拭いています。 と一年を通して拭いていますが、2週間に一度拭かれている橋は全国どこを探してもないと思います。そこまでの愛着で拭いていると愛しくなり、どの部位が劣化しやすいか、塗装の程度は大丈夫か、水の影響はないか、伸縮装置は正常か、手すりに棘はないか、ボルトは緩んでいないか、床版材は傷んでないか、なんなら痛くないか、ケガしてないか、無理してないか、そんな目で見ている気がします(笑)。皆さんが思いを持って設計された、施工された、維持管理されているその橋が、表門橋みたいに愛される橋が、全国に増えるとことを願いまして、楽しい橋守活動をおこなっている宇部港湾・空港整備事務所の今井努さんにバトンを渡したいと思います。

愛知製鋼