新技術と現場の架け橋

北 健志西日本旅客鉃道株式会社
本社鉄道本部構造技術室 鋼構造
北 健志

JR西日本に入社し、鋼鉄道橋の仕事に携わったのは、2003年に神戸工事所管内の架道橋改築の現場担当を経験したことがスタートです。JR神戸線の線路を移設しながら仮線工法で4連の上路プレートガーダーをH鋼埋込み桁(橋長23メートル)に架け替え、複々線の内側線間に生み出したスペースに島式ホーム(さくら夙川駅)を構築する現場でした。積極的に現場に足を運び、三現主義の上司から発注者・技術者の役割を教わりました。 上司の言葉を心に刻み実践してきたことがあります。例えば、『ただ単に計画通りに実施するだけでは、現場の存在意義が薄れる。現場は、計画で見えにくい課題が見えてくる段階であり、その課題を見過ごしてしまうと、安全面やサービス面で支障がでる可能性がある。従って、計画を具体化していく中で、安全面やお客様の視点を考慮した場合、計画に無理は無いか、ユーザーの立場からすると不都合は無いか等、様々な視点から問題を見つけ出し、それらを解決していこうとする姿勢を忘れてはならない。』との指導で、憧れを抱いた上司との出会いやこの現場での経験が私の原点となっています。 2006~09年の3年間、鉄道総合技術研究所鋼・複合構造研究室へ出向し、鋼鉄道橋研究のスペシャリストの方々の指導のもと、鉄道構造部物等設計標準の改訂作業やCFT部材の適用範囲拡大に向けた実験など貴重な経験をさせていただきました。また、研究業務や野球班の活動を通じて人脈を拡げることや、日本鋼構造協会(耐候性鋼橋梁部会)等の学協会活動に参画し、鉄道の分野を越えた多分野の高い技術に触れることができました。 出向後の6年間は、社内の建設部門(主に間接部署)でSRC下路トラスや北陸新幹線の合成桁などの設計・製作の品質管理、架設時の安全管理、供用開始後の検査や耐震補強など、一連の業務を経験することで設計・維持管理の重要性を認識しました。私の豪放磊落な性格は長所であり短所でもありますが、疲労き裂や座屈事象を目の当たりにしたこともあり…、鋼橋の設計では構造細目を含めた疲労耐久性等への配慮が大切なことを痛感しました。 2015年からは現場の係長として3年間、新駅や架道橋改築の現場を担当しました。憧れた上司の域に達することは容易でないと分かりつつも、時間のやりくりに悩みながら教わった姿勢を実践しました。日々、安全・品質・工程・予算・関係協議などの課題と向き合い、関係者と建設的な議論を交わすことで大局観・バランス感覚、人間性を磨く機会を得ました。30代の思い出は、現場関係者や地域の方々と一緒に新駅開業の瞬間を共有できたことです。そして、現場での取り組みを『JR総持寺駅新設と架道橋改築』と題して発表する機会にも恵まれ、2018年度の土木学会関西支部技術賞を受賞できました。 昨年の6月に本社鉄道本部の構造技術室に配属となり、主に鋼鉄道橋の設計や維持管理、ロッキング鋼脚の耐震補強の技術監理を担当しています。さらに新技術の導入等を検討し、鉄道構造物の安全性や生産性向上に資する技術開発等に挑戦する機会を得ました。現在は、コロナ禍で当社を取り巻く経営環境の変化を受けて、技術による変革の推進に向けた機運の高まりを感じています。不惑の年を迎えた私の強みである〝設計・維持管理の経験や人脈〟を駆使して、鉄道が国の基幹的輸送機関として、地域に根差し、地域とともに発展していけるよう、鉄道橋の安全性向上や将来に向けて、新技術と現場を繋ぐ施策をきめ細かく実施していきます。 次は、鋼合成鉄道橋の設計や計測等で連携させて頂いている鉄道総合技術研究所の徳永宗正様にリレーします。

愛知製鋼