株式会社巴コーポレーション
橋梁技術部技術グループ長・計画グループ長
西川宇市郎
私の出身地である長崎県には多くの大規模橋梁があり、大きな造船所も身近な存在で、巨大な構造物を日常的に目にする環境でした。中学生の頃、当時建設が進んでいた明石海峡大橋のドキュメンタリー番組を見て、巨大な橋がミリ単位の精度で建設されていることを知って驚いたのを覚えています。
大きなものづくりに携わる仕事に魅力を感じ、工業高校、大学へと進学し、平成15年に巴コーポレーションに入社しました。初めの一年半は鋼橋の架設現場で勤務しました。右も左も分からず苦労しましたが、現場での経験から、作業を安全かつ工程通りに進めるためには事前準備が重要であることを学びました。当時上司からよく言われた「段取り八割」という言葉を覚えています。
現場勤務の後は橋梁技術部へ異動しました。現場で実物を見ていた経験が図面を理解したり、橋に作用する力の流れをイメージする助けになりました。
特に印象深いプロジェクトを3つ挙げると、1つ目は、斜角45度、曲率R‖80メートルという厳しい線形の鋼床版橋での検討です。ずれた配置となっている縦・横の鋼床版現場溶接線の収縮による変形量を格子解析で算出して、桁製作キャンバーに反映しました。この検討を通して、頭の中でイメージした挙動と解析結果が一致する構造解析の面白さを知りました。
2つ目は、パイプトラス構造の歩道橋である「黎明小橋」です。高いデザイン性を実現するために高精度な製作・架設が必要であったため、作業員の方々とも議論しながら、製作方法の細かな検討や構造詳細の改善に取り組みました。ものづくりは製作・架設現場の苦労で成り立っていることを再認識しました。
そして3つ目は、とりわけ印象深い、栃木県足利市の渡良瀬川に架かる「中橋」の移設工事です。1936年完成の3連ブレースドリブタイドアーチ橋を、解体することなく大型クレーンで13メートル下流側へ移設し、歩行者・自転車専用側道橋として再生させるというプロジェクトでした。90年前のリベット構造の橋体を安全かつ効率的に移設するため、吊点の選定や吊金具の構造設計に頭を悩ませました。移設当日に巨大な橋体が高々と吊り上げられ、無事に移設できた瞬間は感動的でした。多くの住民の方々も見学に来られ、地域のシンボルとなる橋の価値を再認識する機会になりました。この事業において、土木学会よりかけはし賞と田中賞(作品部門)を受賞し、一技術者として携われたことを、大変光栄に思います。
社外活動としては日本橋梁建設協会や鋼橋技術研究会に参加させていただいています。大学の先生方や他社の方々との交流で広い見識を得られるだけでなく、日々の業務へのモチベーションを高める格好の機会となっています。
最近は、橋は交通インフラとしてだけでなく、地域の文化や人々の思い出にも残る大切な資産だと感じるようになりました。中橋移設の見学者の中から将来の橋梁技術者が誕生することに思いを馳せつつ、これまでの経験を活かし、橋の建設を通して社会に貢献していきたいと考えています。
次回は、中橋移設事業で大変お世話になりました、富貴沢建設コンサルタンツの橋昌宏様にバトンをお渡しします。
