維持管理の経験を生かす

丹波 寛夫阪神高速技研株式会社
技術部 設計課長
丹波 寛夫

「この中から、阪神高速道路の復旧を一緒にやってくれる人いないかなあ」 兵庫県南部地震直後の1995年1月末頃、指導教授であった渡邊英一先生が、阪神高速道路の被災現場の視察に行かれるということで、他の学生と一緒に私も同行させていただきました。冒頭は、案内していただいた阪神高速の方から、移動中のバスの中で言われたことです。当時はバスの後ろの方に座り、就職活動はまだ先かなと考えておりましたが、ケーブルのクリープの研究を行っていた私は橋梁に興味があり、1年後の1996年に阪神高速道路公団(当時)に入社しました。 入社3~4年目に、支承取替及び落橋防止装置改良工事10件あまりの詳細設計審査を担当しました。当時、上部工の耐震補強工事は始まったばかりであり、各工事の設計方針に齟齬が生じないように調整を行いました。時には、いったん受領した設計図面等を、他工事との統一性を確保するために後から修正をお願いすることもありました。その後、何かの機会で当時の受注者の方にお会いした際には、「あの時は、無理を言って申し訳ありませんでした」とお詫びすることに。 維持補修工事を担当する部署に所属していた2006年、阪神高速のランプ橋の路下で火災が発生し、鋼箱桁の下フランジと縦リブが局部変形しました。その際、緊急処置の検討を行うとともに、復旧工事の現場監督員として携わりました。その後、火災対応の経験があるということで、土木学会の火災を受けた鋼橋の診断補修技術に関する研究小委員会に参加し、学識経験者のほか、鉄道・道路の管理者や研究者と様々な意見を交換させていただきました。 2010年からは、阪神高速道路管理技術センター(現:阪神高速先進技術研究所)に出向し、鋼構造物の疲労対策や防食技術に関する調査・検討を行いました。在籍時、鋼腐食部に対するあて板補修に興味を持ち検討を進めていたところ、当時のセンター理事長から学位取得に取り組む機会を与えていただきました。大学では、杉浦邦征教授のご指導の下、接着剤を併用した鋼橋のあて板補修・補強技術に関する研究に取り組みました。 2018年、台風21号の強風により関空連絡橋にタンカーが衝突したことは新聞等で大きく報じられましたが、阪神高速湾岸線においても、鋼製ラーメン橋脚に土運船が衝突し、橋脚梁の下フランジとウェブに面外変形や座屈が発生しました。補修設計を担当する部署に所属していた私は、学識経験者のご意見も伺いながら、高速道路通行規制の必要性や復旧方法について検討を行いました。 現在は、グループ会社である阪神高速技研に出向し、阪神高速道路の土木補修設計等を行う部署に所属しています。 これまで、社内だけでなく、学識経験者や有識者、メーカの方など、様々な人に教えていただきながら、主に鋼橋の維持管理業務に従事してきました。今後は、これまでに得た知識や経験を若手技術者に技術継承しつつ、三次元モデルやロボット等の新技術を活用した維持管理の高度化・効率化に取り組みたいと考えています。 また、阪神高速道路では、大阪湾岸道路西伸部等、管理の経験を生かした新規路線建設にも取り組んでいますので、微力ながら貢献できればと考えています。 次は、日本鋼構造協会の土木鋼構造診断士テキスト作成小委員会でお世話になっている、首都高技術の木ノ本剛さんにバトンをお渡しします。

愛知製鋼