考えや思いを形に

臼倉 誠東京コンサルタンツ株式会社
関東支店構造部 次長
臼倉 誠

私は小さい頃から構造物や都市計画に興味を持っていました。そのためか大学では認知科学的に橋梁を捉える研究や構造デザインに関する研究を専攻しています。今思えば、この時の研究の取り組みが技術者の思考や発注者の考えを抽出して形を成していくことへのコア作りだったのではと思っています。 コンサルタント会社に入社し、景観設計や構造デザインに少しでも携わることができるよう道路橋示方書の理解や設計の基礎を学び直す一方で時代の流れと共に、携わる業務が新設設計から維持管理や解析業務にシフトしていきました。 当初は景観設計と維持管理の両者における新たな工法を導き出すような技術者になりたいと思い、未熟ながらも自主研究をしていたこともあります。しかしながら、徐々に目の前のことをこなすことで精いっぱいとなり、当初の志が埋もれたような日々を過ごしていると、焦りに近いものも感じていました。 そんな折、橋梁の耐震補強設計をしていた時です。木杭の設計法を理解する目的で熟練技術者にアドバイスをもらう機会を得ました。電話でしたが、その方がどのような方かもよく知らぬまま丁寧なアドバイスを頂きました。話の最後に「君は先人たちの思いを理解して、形の意味をもっと考えるべきだよ」と、その方から激励のような叱咤を受けました。はっとさせられ、電話直後から、その指摘された意味を考えました。 その後、相談した方が本州四国連絡橋の設計や計画に多く関わられた故・吉田巌氏であったことがわかり、とんでもない技術者に安易に相談してしまったことを反省しつつ、御礼の返信メール作成には短文ながら多くの時間を費やしました。思い出すだに冷や汗が出てくる記憶であり、今でも心に留めています。 それ以来、維持管理業務においても設計当時の思想を理解すると共に先人たちの考えや思いを意識することに留意してきました。 ただ、そう考えれば考えるほど、先人の思いや考えを具現化して業務に携わることに、私自身の力不足をひしひしと感じました。 そうした時、周囲の協力の下、「腐食した桁端部の耐荷力評価」を研究する機会を得ました。自分自身の技術力を磨かないと形にできない状況にあり、まさに試練の連続、多くの先生や技術者と交流し未熟ながらも様々な形の表し方を習得させて頂きました。 今でもFEM解析の結果を繰り返し確認し現象を頭の中で数値化することや、実験値等をもとに技術の積み重ねで道路橋示方書が改訂してきた経緯と設計をつなげる考え方は、この時の経験があってこそで、ここで得たことは今も活かされていると考えています。 最近では、形をなすものとして比較的わかりやすいBIM/CIMを含む橋梁の新設設計の業務に携わっています。情報が形を成して発注者や若手技術者とイメージを共有するところに興味深さを感じています。 また一方で、点検結果の整理・分析などのマネジメント業務にも携わっています。様々な点検記録様式の所見を整理していると、その技術者の思いや診断者の技量も見えてきます。 その結果の傾向が相殺されないようにうまく抽出して方向性を導きだすことがこの業務の醍醐味ではないかと思っています。 考えや思いを具現化するには様々な方法があり、この取り組みはあくまで通過点に過ぎないでしょう。今後も先人たちの思いや考えを引き継ぐと共に、これらを踏まえて新たな形作りをしていけるよう、精進したいと考えています。 次回は鋼橋技術研究会で様々な部員の意見を一つの報告書を形にするのにともに苦労した、綜合技術コンサルタントの金銅氏にバトンをお渡しします。

愛知製鋼