実橋実験から学ぶこと

大島 義信国立研究開発法人土木研究所
構造物メンテナンス研究センター主任研究員
大島 義信

私は大学で研究に従事していた期間が長く、実際の橋梁に接する機会が少なかったのですが、思い出に残る橋がいくつかあります。 一つ目は、教員になりたてのころ、右も左もわからないまま、皆さんにご指導頂きながらモニタリングを実施した、兵庫県の国道2号線に架かる有年橋です。当時、新都市社会技術融合研究会という、産・官・学の連携活動があり、その枠組みでこの有年橋のモニタリングを行いました。このとき、光ファイバを用いた初めての本格的な軸重モニタリングに成功しましたが、研究成果だけでなく、この研究会を通じて知り合うことができた、産・官・学の様々な方との人脈も大きな財産となっています。 次に思い出に残る橋は、大阪府の淀川に架かる旧鳥飼大橋です。旧鳥飼大橋は橋長550㍍のゲルバートラス橋で、撤去前に計測のチャンスを頂きました。このときは、トラスの斜材をガスで破断するなど、実際の橋梁に模擬的な損傷を与えて計測をする大変貴重な経験を得ることができました。 さらに、奈良県にある阿太橋においても、撤去前にトラスの鉛直材をガスで切断することを許可して頂き、実橋実験の経験を積むことができました。大阪メトロ中央線にある朝潮橋も、大変印象に残っています。 朝潮橋では、点検で発見された大きな疲労き裂の補修が予定されていましたが、その補修の前後で橋梁の振動計測を行う機会を得ました。このとき、大阪市交通局のご厚意で、車両側にも加速度計を搭載して、初めて車両振動と橋梁振動の同時計測を行うことに成功しました。  その後、米国カーネギーメロン大学に客員研究員として滞在する機会がありましたが、朝潮橋での経験を活かし、ピッツバーグ市を走る路面電車に加速度計を取付けて、軌道の損傷検知に挑戦しました。カーネギーメロン大学はロボティクスの分野で世界に名を知られる大学で、彼らが得意とする機械学習的なアプローチで実構造物の損傷検知を試みました。昨今ブームになっているディープラーニングが台頭し始めていたころです。 土木研究所でも、構造物の診断を行うAIの開発に取り組んでいますが、このときの経験がその礎となっています。 2015年に土木研究所に移ってから思い出に残っているのは、北海道の築別橋です。PC橋である築別橋を、架橋した状態で曲げ破壊させることを目標に、載荷試験を行いました。破壊を目指して行ったこの実験では、まず床版に穴をあけてグランドアンカー2本を橋面上まで伸ばし、そのグランドアンカーから反力をとり、2台のジャッキを設置することで、上部構造に600トン以上の荷重をかけられる状態を実現しました。 実際には、外桁の中央に320㌧載荷した状態でほぼ最大耐力となり、その後は変位が大きくなるばかりで、結果的にジャッキのストロークの限界により大幅に耐力が低下する段階までは確認することができませんでした。この実験によって、桁単体として曲げ破壊やせん断破壊が始まった場合でも、上部構造全体としては桁の荷重再配分効果によってすぐには破壊せず、いわゆる塑性変形していくことが明らかになりました。 このことは、実際の上部構造全体を破壊まで載荷して初めて明らかになった知見です。実験室における基礎現象の確認も重要ですが、実際の橋から教わることも多く、これからも実橋を対象とした有意義な研究を続けたいと考えています。 次回は、金沢工業大学の田中泰司先生をご紹介します。

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