ゆりかごから墓場まで

林 和彦香川高等専門学校
建設環境工学科准教授
林 和彦

民間企業志望が不採用で、縁あって母校横浜国立大学の池田尚治教授の下で2001年より助手として働くことになりました。学生時代から継続してRCやPC構造物の耐震、新工法の開発等のプロジェクトに関わり、構造物の破壊のイメージや実験手法を身につけました。 横浜国立大学細田暁教授に紹介されて2007年に入った土木学会「構造物表層のコンクリート品質と耐久性能検証システム研究小委員会」では、コンクリート中の物質移動など今まで馴染みのない専門用語に戸惑いながらも、構造物の品質と耐久性との関連性等の知見を深めることができました。委員会では後に重要文化財となった信楽高原鉄道第一大戸川橋梁を調査する貴重な機会を得て、分析のためのコア採取、細田教授と共同開発した表面吸水試験の実施など夢中で取り組みました。 その後、鹿島建設坂田昇土木技術部長からコンクリート構造物の品質を語るなら生コンを知らなければダメだと諭され奮起して門を叩いたのが土木学会「コンクリートの施工性能の照査・検査システム研究小委員会」でした。スランプだけは表現できない施工性能という当時はまだ先駆的な内容について取り組む中で、材料から構造まで全てが繋がっていることを深く実感できたのは私の糧になりました。 日本コンクリート工学会関東支部には若手会21という産官学の若手技術者が技術研鑽を行う委員会があり、私が入った当時は少なからぬ予算が配分されテーマは自由で成果は求められませんでした。バックグラウンドが全く異なる人が集まり意見交換を重ねました。大学では学生と一緒に建設現場や工場を見学する機会が多いですが、民間企業では自分の業務範囲のみ、同業他社の現場には入らない、等の制約があることを知りました。 仕事へのモチベーションを高めるには自分の業務がどんな形で社会に貢献するのかを知ることが大事だとの思いに至り、代表を務めた際にコンクリートの製造、建設、供用、維持管理、解体に至るまでを一気通貫で見学する「コンクリートのゆりかごから墓場までツアー」を計画しました。何でも競争、短期的な成果を求める近頃の風潮の中で、このように若手を温かく育てる環境に身を置けたのは貴重な経験でした。 2013年に出身地高松にある香川高専へ転職。専門外の鋼構造や設計製図を授業担当することとなり10年以上のブランクを経て猛勉強しました。同じ頃、地元自治体の橋梁長寿命化修繕計画有識者を複数担当することになり、橋梁メンテナンスから見るとコンクリートも鋼も区別なく専門家としての知識が求められました。勉強の甲斐あって後にコンクリート橋と鋼橋が連成被災した橋梁洗掘災害では総合的な観点で助言できたことが自信に繋がりました。 2019年からは文部科学省の助成プロジェクトが採択され舞鶴高専で先行していた橋梁メンテナンス社会人技術者育成を所属校でも行うこととなり、2020年に香川高専社会基盤メンテナンス教育センターを設立し「橋を見守る・人を育てる」活動を進めています。 地方に身を置くと骨材、生コン、設計、建設、維持管理、リサイクルまで様々な地元の課題に直面し、それらが相互連関していることを知りました。研究をして論文を書くにはスペシャリストであらねばなりませんが、学識経験者の立場としては分野横断のゼネラリストとしての能力も必要で、広い視野を持って方向性を提示すべき場面もあります。 強制的な巡り合わせで広い分野に携わった経験がプラスになりました。最近では同じく巡り合わせで入会した土木写真部の活動を通じて「No Doboku,No Life.」魂を発信しています。 次は、私が高専を意識し誇りをもって転職をするきっかけを与えていただいた福井高専の田村隆弘校長にバトンを繋ぎます。

愛知製鋼