何事も楽しんで

原 考志川田工業株式会社
橋梁事業部橋梁企画室 主幹

原 考志

私が橋と関わり始めたのは、大学の研究室に配属され恩師である藤井堅先生の下で「腐食した鋼構造物の耐力評価」についての研究に携わってからでした。研究では上手くいかないことも多々ありましたが、恩師から「楽しんで」取り組むことの大切さを学びました。 橋梁に携わる仕事に就きたいとの思いから、2005年に川田工業に入社し、これまで17年間に亘り主に橋梁の設計に携わってきました。入社以来の業務を振り返ると、それぞれに思い出深いのですが、その中でも高速道路の詳細設計に多く携わってきたことが思い起こされます。 現在進行形を含め、幸運にも15物件もの工事に携わってきましたが、特に印象深いのが西名阪自動車道御幸大橋(下り線)の床版取替工事です。 この工事では、床版と鋼桁が馬蹄形ジベルで結合された合成桁の床版を、限られた夜間の通行止め時間内でPCa合成床版に取り換え、昼間は交通開放する、という非常に厳しい制約が課されていました。床版を斫って撤去するには時間が足りないことから、本工事では主桁ウェブの上部をあらかじめ、切断・仮添接しておき、床版と上フランジ・ウェブ上部を一括で撤去する画期的な工法が採用されました。当然、架設中は上フランジが一時的に〝無い〟状態になることから、桁の安全性を確保することが重要でした。各種対策を施したものの、施工の当日まで「本当に大丈夫か?検討に見落としはなかったか?」と不安は募るばかりでした。1枚目の床版が主桁の一部とともに撤去され、上フランジを失った主桁が変状を示していないことを確認すると、その場にへたり込んでしまいそうなほどホッとしたことを今でも覚えています。また、最後の床版パネルを設置完了後、床版上で上司と交わした握手は忘れることができません。 次に思い出深いものとして、いくつか携わったアーチ橋があります。バランスドアーチ橋の中央径間を吊上げて架設した「海の中道大橋」、タイバック工法によりスパンドレルブレースドアーチ橋の補剛桁を橋台と固定した状態で張出架設した「天ノ川大橋」、従来のワイヤーロープでなくVSLジャッキとPCケーブルにより、ニールセンローゼ桁橋をケーブルエレクション斜吊り工法で架設した「出合ゆず大橋」、グラウンドアンカー定着部の水没を回避するために定着部にタワーベントを用いた「新阪本橋」など、特徴的な架設方法が採られたアーチ橋に携わりましたが、その中でも三遠南信道路・天龍峡大橋は特に思い出に残っています。 本橋はアーチリブがバスケットハンドルでかつ曲線の補剛桁を有する3次元的な構造が採用されていました。そのため、構造検討は2次元CADでは困難であり、初めて3次元CADに触れることになりました。架設時の形状管理においては、大変形解析による解体計算や形状調整の支援ツールの作成に取り組み、架設部門の方々と議論やグラスを幾度となく交わしたことも良い思い出です。また本橋は光栄にも平成30年度土木学会田中賞(作品部門)を頂くことができました。 これまで、業務上の困難はいくつもありましたが、どこかに楽しさを見つけて取り組むことで乗り越えることができたと思います。今後は、これまでに得た経験、知見に加えて、仕事を楽しむことの大切さを後進に伝えつつ、私自身も新しいことにチャレンジしたいと考えています。 次回は、天龍峡大橋でお世話になりました、パシフィックコンサルタンツの西谷真吾様にバトンをお渡しします。

愛知製鋼