小さな町の橋梁管理奮闘記

安部 俊光奥出雲町
建設課 土木グループ
安部 俊光

島根県奥出雲町は、人口1万3千人 山間に位置する小さな町です。特産品には仁多米や奥出雲和牛などがあります。また、古くから「たたら」製鉄で栄え、今でも世界で唯一、古来からの「たたら」操業を行い日本刀の原料となる「玉鋼(タマハガネ)」を生産している町です。  町道を管理する建設課の職員数は、管理職を含め10人です。職員の中には橋梁の専門知識に長けている者もおりますが、私も含めほとんどの者が乏しく、技術力・人材の確保が課題となっています。また、建設課の予算はおよそ20億円、管理する橋梁は439橋で、橋梁の維持管理にあてられる予算は5千万円程度と、予算の確保も困難な状況であるといった多くの問題を抱えています。 そういった中で、5年前、5年に1度の橋梁の点検が義務化となり、今後毎年ずっと2千7百万円もの点検費用を必要とし、補修も行っていかなければならない事態に困惑していました。ある時、県の職員から唐突に電話で、「橋梁の直営点検の実証実験を大学や財団とやってみないか」という話があり、勢いに押される形で『インフラ維持管理における市町村への技術支援方策検討』という研究に参加することになりました。参加といっても我々は実験台だったわけですが。 この研究では、専門家や県の職員と一緒に、実際に職員自ら脚立を担いで現場に行き、橋を見て、損傷をスケッチし、写真に収めることから始めました。町の管理する橋は小規模なものが多く、この方法で十分可能であることもわかりました。そこで、島根県は県内の自治体の橋梁規模を鑑みた点検要領を国が示した技術的助言を参考にし、新たに策定してくださり、この要領に基づき点検実施することで、点検記録労力の低減と健全度判定の不整合の解消、点検コストの縮減を図ってくださいました。 これにより2014~18年の5年間で376橋およそ85%の点検を職員が自ら行う事が出来ました。そして、直営で点検することにより余った点検委託費を補修費用へ充当し、補修の早期実施を図っています。 また、点検するため現場に赴いた時、鉄筋の露出部に錆び止めスプレーを施したり、伸縮目地に目地材を注入したり、パラペット部の段差を常温合材で補修したり、破損したガードレールを取り替えたりと簡単な補修を自らも速やかに行い、橋の延命や第三者被害の防止に努めています。さらには、橋梁の点検は、専門的な知識を有するものが行うこととされているため、道路橋点検士の資格を取得するなど、職員自らが責任をもって取り組む意識も生まれてきました。 この取り組みを進めてきたお陰で講演の依頼もいただくようになり、今まで県外の出張などはほとんど無かったのですが、宮城や京都、鳥取、山口、長崎などから呼んでいただきました。さらに、同じ悩みを抱える市町から本町へ視察に来ていただき、いろいろな方々と交流できたことは私自身の貴重な体験であり、ご指導くださった国、県や大学関係者、橋梁調査会の皆様に感謝の気持ちでいっぱいです。今後は、橋梁点検や補修のノウハウを橋梁の新設にも生かすことでさらなる品質の確保に繋げていきたいと考えています。 次は、この研究でご指導いただいた東京大学大学院情報学環特任研究員津曲渉様に引継ぎます。

愛知製鋼