時代ごとの橋梁振動学の役割

深田 宰史金沢大学
理工研究域地球社会基盤学系教授
深田 宰史

私が橋梁振動学に携わったのは、卒業研究を行う大学4年生のときである。その頃は、恩師の梶川康男先生をはじめとして大島俊之先生、岡林隆敏先生、加藤雅史先生、川谷充郎先生、久保雅邦氏、杦本正信氏、林川俊郎先生、本田秀行先生、前田研一先生、米田昌弘先生が橋梁振動研究会を立ち上げ、青本と呼ばれる「橋梁振動の計測と解析」を出版された時代であった。その頃の主な研究テーマは、建設時の振動特性の計測、振動制御、衝撃係数、歩道橋や道路橋における振動使用性、高架橋周辺での環境振動(地盤振動や低周波音)、車両走行シミュレーションなどであった。
私が最初に実橋梁の研究に関わったのは、同じ時代の大学4年生の夏休みだった。岡林先生の研究室と当時のオリエンタル建設(担当 角本周氏)との共同研究で天草のゴルフ場に架設されたPC吊床版橋を対象としたアクティブ振動制御の実験に同行させて頂いたときである。その当時、アクティブ振動制御は時代の最先端の研究であったが、その研究よりもPC吊床版橋が波打つほどに揺れることに衝撃を受けたことを覚えている。その後、PC吊床版形式の橋梁を対象とした研究は、私の大きな研究テーマの一つになり、単純形式から上路形式など様々な橋梁で振動実験を行い、吊形式橋梁の振動使用性について明らかにした。
大学院修士課程のときに阪神大震災が起き、構造系の研究テーマは、耐震や免震が主流となった。博士課程に進学した私は、杦本氏の紹介で阪神高速3号神戸線に架設された19径間連続立体ラーメン免震橋の振動実験に参加させて頂いた。この橋梁はラーメン橋脚下端に免震支承を設置した非常に珍しい橋梁であった。この免震支承に対して、油圧ジャッキで静的載荷する実験、強制変位を与えた後に急速開放させる実験、複数の大型クレーン車を走行させた環境振動に対する走行実験などが行われた。私はこれらの実験の解析を担当することになり、免震性能の評価や環境振動評価などを論文にまとめることができた。
教員になってからは、都市高速道路周辺の環境振動問題を研究テーマして、振動苦情の原因究明、対策方法の検討を実験と車両走行シミュレーションを行うことで振動問題解決のために微力ながら貢献してきた。
2014年度には、鳥居和之先生を研究責任者とした北陸SIPのグループが、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)に採択された。私はASRや塩害による劣化を生じた橋梁のモニタリングを担当した。維持管理は今でも大きな研究テーマであり、橋梁の振動特性を用いた劣化度評価の研究は今後も続くことなる。
2018年度からは、金沢大学と石川県が申請者となった地域イノベーション・エコシステム形成プログラムに参画させて頂き、振動発電技術を用いた橋梁の腐食モニタリングについて研究を行っている。昨今のエネルギー事情から環境発電技術を用いて効率的にエネルギーを獲得することが注目されており、橋梁振動の振動エネルギーを使って電力を獲得し、モニタリングデータを無線で送信する技術開発を行っている。
以上のように橋梁振動学という学問は、時代のニーズに応じた研究背景を取り入れ、それぞれの役割を果たしてきたといえる。これからも社会に貢献できるように異分野との連携を図りながら橋梁振動学の発展に寄与したい。
次回は、北陸SIPの教員メンバーであり、下部構造を専門としている富山大学の河野哲也先生をご紹介します。

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