木橋との出会い

中澤 隆雄宮崎大学 名誉教授(宮崎コンクリート研究所長)
中澤 隆雄

私は大学で主にコンクリートに関する教育・研究に携わってきましたが、木橋との関わりは、宮崎県が、「ふるさと林道緊急整備事業」として、西米良村内の一ツ瀬川を渡河する木橋を計画したことが契機でした。長年連続して生産量全国一である宮崎県産杉材を活用したいとの県の方針のもと、設計施工管理検討委員会が組織され、委員長を仰せつかることになりました。様々な検討の結果、弱点となりやすいジョイントが最少となるキングポストトラスの3連(米良三山のモチーフ)と桁1連で構成される、木造の車道橋として全長と支間長が我国最大(全長:140・0メートル、幅員:7・0メートル、15メートル単純桁+50メートルキングポストトラス2連+25メートルキングポストトラス)となる「かりこぼうず大橋」(かりこぼうず:西米良村に伝承されてきた森の精霊)が架設されることになりました。橋長では本橋のモデルとなったフィンランドのビハンタサルミ橋が168メートルで世界最長ですが、支間は本橋の方が長くなっています。2003年4月に供用が開始されて以来、本橋について種々の試験を行ってきました。

さらには、宮崎県が小林市の「平成の森」森林公園に架設した木造車道橋の「杉の木橋」(1997年3月竣工、上路式アーチ橋、橋長38・6メートル、支間長34・0メートル、幅員8・0メートル)についても試験をする機会があり、それらの成果を国際木質構造会議(World Conference on Timber Engineering、略:WCTE)や土木学会の木橋技術シンポジウムに発表できたことは、教育・研究の幅を広げるうえで貴重な経験となりました。 また、WCTE1990 (第2回会議)が東京で開催されて以来我国で開催されていない本会議を、宮崎の地において開催したいという、当時の宮崎県木材利用技術センターの有馬孝禮所長や飯村豊構法開発部長などの方々の熱意の下、第8回会議(2004、フィンランド・ラハティ)にて誘致のプレゼンテーションを行い、宮崎でのWCTE 2008(第10回会議)開催が決定されたことはこの上ない喜びでした。

残念な思いとしては、宮崎県日南市油津の堀川運河に架かっている、木造車道橋の「花峯橋」(昭和4年架設、橋長:27・25メートル、最大支間:9・1メートル、有効幅員:5・6メートル)を登録文化財として修復保存できなかったことがあります。

木造船用弁甲材の飫肥杉で作られており、2004年3月に国の登録有形文化財に登録されました。今後の修復等の資料を得るため行ってきました各種試験結果等についても、関連学会等で発表してきた経緯もあることから、日南市が2016年に立ち上げた整備検討委員会にて私が委員長を務めさせていただきました。文化財として保存しつつ今後も供用を続けるため、本委員会で様々な観点から問題点を検討してきました。しかし長年月供用されてきて傷みが著しいため、登録有形文化財としての保存・修復はできないとの日南市議会議決のもと、全面通行止めとなっています。宮崎から名橋がまた1つ消えるのは寂しい限りです。

現在、宮崎の各自治体の橋梁長寿命化修繕計画作成等のお手伝いをさせていただいていますが、中には架替が妥当と考えられる橋梁もあります。小規模橋梁の架替に際しては、木材の有効活用や技術の伝承を考えれば、数十年程度の比較的短い寿命を想定した木橋も、選択肢の1つとなるのではないかと思います。短い余生ですが、少しでもお役に立てればと思っている次第です。

次回は、宮崎にて鋼橋設計コンサルタントを創業されておられる株式会社江橋設計社長の江橋正敏様(元川田工業株式会社勤務)にバトンをお渡しします。

愛知製鋼