橋との関わり

澤田 守国立研究開発法人 土木研究所
構造物メンテナンス研究センター 橋梁構造研究グループ主任研究員
澤田 守

大学では、土木分野の学科ではなじみが少ないかもしれませんが、溶接を扱う研究室に入り、溶接で生じる変形や残留応力を数値解析で予測するという研究をしました。ただ、研究のように一つのことを突き詰めるというより、いろんなことをやってみたいという思いもあって、国土交通省に入省しました。スタートは、北海道開発局で、道路の調査と港湾の計画を1年ずつ担当しました。 橋と特に関わりを持つようになったのは、3年目の土木研究所(以下、土研)へ異動してからです。ちょうど、土研にCAESAR(シーザー)が設立され、道路橋の維持管理の研究に力を入れて進めていくタイミングに重なり、約5年にわたり、鋼橋に関する様々な研究をさせてもらいました。 既設橋は、設計時の構造、施工状況、供用後の環境など条件が様々であり、既設橋の条件を模型等で再現するのは限界があるので、特に実橋での実験・計測データの計測とそれらデータに基づく評価法の開発に力を入れて取り組みました。国内のいくつもの撤去橋梁を活用して、撤去前に荷重車等を使って現地載荷試験を行い、その後、撤去した部材を土木研究所の試験機等を用いて破壊に至るまでの載荷試験を行いました。橋の全体挙動や部材がどのように壊れるのかを確認することができ、自分自身にとって大変勉強になりました。 その後、中部地方整備局の事務所で2年、本局で2年と行政の仕事をし、さらにその後、国総研の熊本地震復旧対策研究室に異動となりました。研究室は、つくばではなく復旧事業を行う熊本復興事務所とともに阿蘇山の外輪山の内側(南阿蘇村)の庁舎内にあり、行政と研究所が一体となり、復旧に向けて取り組みました。 研究室は、3人という少数ではありますが、つくばの土研CAESARや国総研とも連携して、同じような地震がきたとしても被災が軽減できるよう様々な技術的な工夫を検討して事務所に提案し、現場実装してもらいました。被災した橋の復旧では、各種の不確実性を有するため、施工時にはモニタリングの活用なども行いました。助言した結果が反映されるところも含めて現場のことを見られたことは、非常に貴重な経験となりました。 熊本は1年で、土研CAESARに戻り、今に至ります。現在は、点検・診断の実務に長く携わってきた熟練技術者と議論しながら、橋の診断を支援するためのAIシステム(エキスパートシステム)の開発、鋼橋関係の研究開発のほか、技術基準類等も担当しています。 今では、行政職の期間より研究職でいる期間のほうが長くなりました。仕事は実際にやってみないとわからないことが多いです。これまで、いろんな素晴らしい人と出会い、そして、そこでの仕事が繋がり、いろんなことをさせてもらっており、感謝しています。こうした経験を生かして、今後も、橋をはじめとしたインフラの整備や維持管理に貢献できたらと思っています。「技術や研究は使われてこそ」だと思うので、研究を突き詰めていくことも大切ですが、実務を担当されている方とコミュニケーションをとって課題を把握することや、成果を施策として提案したり、技術基準類等を含め実務に役立つ形で社会に反映できるよう、努力していきたいと思います。 次回は、大阪大学の廣畑幹人先生にバトンをお渡し致します。

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