経験は技術者の器を広げる

坂本 一弘高田機工株式会社
和歌山工場橋梁製造部製品課長
坂本 一弘

大学卒業後、縁あって高田機工株式会社に就職し、溶接施工試験や研究を行う技術管理課(現:技術研究所)に配属され、本州四国連絡橋公団の明石海峡大橋溶接施工試験、和歌山工場導入の溶接ロボット施工試験、めっき桁現場溶接施工試験などを担当し、土木学会や社内技報への投稿等を経験しました。 4年後、製造課に配属され製作管理を担当しました。隅角部の製作順序や精度確保に苦労した浜松市のパイプアーチ橋、極厚フランジの少数I桁橋、北上川にかかるアーチ橋、交通量の多い交差点上や駅へアクセスする歩道橋、来島大橋補剛桁大ブロックのヤード溶接管理などを経験しました。製作ライン管理業務は、当初工場作業者の方々に叱られながらの厳しい業務でしたが、慣れるに従い自信を持って仕事に打ち込めたのを覚えています。 その後、製品課に配属され、橋梁仮組立と鉄骨出荷、輸送業務を担当しました。鉄骨出荷では橋梁と異なる図面表記に戸惑い、建方日の変更に伴う調整や対応で、帰宅が深夜になることもありましたが、顧客のニーズにうまくマッチした時の充実感を数多く経験しました。建方の打合せで訪れた現場では、多くの工種が同時に遅滞なく進捗していることに感動しました。 工場出荷後は、一般の方が行き交う中を安全確保しながらの輸送であり、また運行に係わる各法令等を遵守する必要があるため、事前計画が非常に重要であると感じました。 初めて計画した工事は、東大阪市の寝屋川に架かるアーチ橋へ、幅3・5m、長さ13・0mの側鋼床版を追加・拡幅し歩道とする工事です。現場周辺は住宅密集地で、道路も狭く部材が搬入出来ない状況であったため、「河川輸送」を計画しました。寝屋川に隣接する客先の管理ヤードを借用し、工場から陸上輸送した部材をヤードで河川用台船に積み替え、寝屋川を遡上し現場直下まで河川輸送、その後、陸上から荷取り・架設を行う計画でした。各業者や関係省庁への手続き等、分からない事だらけでしたが、上司の指導や各業者の意見を参考にしながら、計画から施工へと進むことができました。 台船輸送は、河川とはいえ潮位差があり分単位のスケジュールで、橋梁下を通過する際はヒヤヒヤものでした。桁下数㎝の場所も無事通過し、途中の橋の上で手をふってくれる、小さい女の子を連れた親子の姿を見た時に心が癒されました。船上和やかな雰囲気のなか、無事、製品を搬入・荷取りし作業完了することができました。その後、大ブロック輸送や東京都鋼殻ケーソンの監理技術者として現場を経験しました。 あっという間の28年間で実感したことは、「経験は技術者の器を広げる」ということです。より一層努力を惜しまず、器を広げると共に後任者への技術継承が今後の課題です。 また、法令や仕様書を遵守し、さらなる「安全運行」を目指し、発注者や一般の方に安心して頂けるよう業務を進めていきたいと思います。 次はJV工事で大変お世話になりました、エム・エムブリッジ株式会社の武田有祐さんにバトンを託します。

愛知製鋼